民家が巻き込まれた土砂崩れ現場で、救助・捜索活動が進む/7月4日、鹿児島県曽於市 (c)朝日新聞社
民家が巻き込まれた土砂崩れ現場で、救助・捜索活動が進む/7月4日、鹿児島県曽於市 (c)朝日新聞社
AERA 2019年7月15日号より(国土地理院地図をもとに国土交通省が作成。一部編集部で加工した)
AERA 2019年7月15日号より(国土地理院地図をもとに国土交通省が作成。一部編集部で加工した)
AERA 2019年7月15日号より(国土地理院地図をもとに国土交通省が作成。一部編集部で加工した)
AERA 2019年7月15日号より(国土地理院地図をもとに国土交通省が作成。一部編集部で加工した)
AERA 2019年7月15日号より(国土地理院地図をもとに国土交通省が作成。一部編集部で加工した)
AERA 2019年7月15日号より(国土地理院地図をもとに国土交通省が作成。一部編集部で加工した)

 九州で大雨が降り続き甚大な被害が出た。地球温暖化などによる異常気象は近年、深刻度を増している。いまや日本中で被害は起こりうる。人口密集地では特に被害も拡大しやすい。豪雨災害の防災対策の現状は。

【要注意といわれている東京、大阪、名古屋の「ゼロメートル地帯」はこちら】

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 梅雨前線の停滞により九州南部を中心に断続的な大雨が続いた。6月28日の降り始めから6日間で1千ミリ超の雨量を記録した地点があるなど、恐怖を覚える災害級の雨が国土に浸み込み、川の堤防が決壊したり、土砂崩れが起きたりしている。多くの犠牲者を出した昨年7月の「西日本豪雨」の教訓からか、今年は自治体による早めの避難指示や災害派遣要請など「ソフト面」での対策が目立つが、はたしてそれだけで大切な命を守ることができるのか。

 宮崎県えびの市では、6日間で平年の7月1カ月分を超える1075.5ミリの雨が降った。鹿児島県鹿屋市でも873.5ミリを記録。気象庁のホームページで公開している両県の地点別データを見ると、24時間から72時間の降雨量に「観測史上最大」「7月の観測史上最大」の表記がずらりと並ぶ。このため7月3日には本も合わせた3県で196万人超に避難指示・勧告が出された。宮崎県都城市山之口町では土砂崩れの影響で3日午後から市道が全面通行止めになり、飛松地区の6世帯14人が一時孤立した。

 既に記録的となったこの大雨の原因は、九州付近に停滞している梅雨前線に、南からの暖かく湿った空気が流れ込み、さらに朝鮮半島上空の寒気を伴う「気圧の谷」が南東に移動したことだ。これにより梅雨前線付近の大気が不安定になり、積乱雲を次々と発生する「線状降水帯」を生み出し、局地的な豪雨につながったとみられる。九州地方は昨年の「西日本豪雨」に続く被害に見舞われたが、ここ数年の豪雨災害は東北地方や北海道にも広がっており、もはや日本全国どこでも起こる可能性を否定できない。はたして、備えはできているのか。

「西日本豪雨で多くの人の命が失われ、最も重要なのは避難情報をどう伝え、避難行動に的確につなげるかという議論になった。大雨・洪水警戒レベルを5段階で設定して、『自分の命は自分で守れ、逃げろ逃げろ』という防災対策を内閣府も奨励するようになった。もちろんこうした意識づけは大切ですが、一方でハードを全く整備せずにソフトだけで命を繋げというのは全くの無策と言っていい」

 こう指摘するのは『首都水没』(文春新書)の著者で、リバーフロント研究所技術参与の土屋信行さんだ。特に東京、大阪、名古屋といった大都市に広がる「ゼロメートル地帯」が要注意だという。

「地盤沈下で海抜以下になっている東京、大阪、名古屋の3大都市に広がるゼロメートル地帯のハード整備は急務です」(土屋さん)

 昨年8月、東京東部低地帯に位置する江東5区(墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区)は、大規模水害時の広域避難計画を発表した。荒川と江戸川が氾濫、高潮浸水被害の恐れがある場合、人口の9割以上の250万人を24時間前に避難させる計画だ。今年5月には、江戸川区が水害時のシミュレーションを詳細に解説したハザードマップを公表。江東5区はほとんどが浸水し、最大で10メートル以上の深い浸水になり、水道・電気・ガスが使えない生活が2週間以上も続くことが予想されるという衝撃的な内容だった。(編集部・大平誠)

AERA 2019年7月15日号より抜粋