「ASDの主症状であるコミュニケーションの障害は、『人間関係の悩み』など一般的な心の葛藤と混同されがちです。患者は『発達障害』と診断され納得したくなる心理が働き、医師によっては症状の訴えに引っ張られ、過剰診断に拍車をかけていると考えられます」(加藤医師)

 ADHDに過剰診断が多いとの指摘もある。特別支援教育の専門家で医学博士の竹田契一・大阪教育大学名誉教授は言う。

「一部の症状を緩和させる薬があるため、過剰診断に流れやすいとの指摘が近年アメリカで注目されています。日本で明確なデータはありませんが、ADHDの診断例はここ10年でかなり増えている実感があります」

 子どもの場合、LDが隠れていて授業の内容が理解できずにつまらないから立ち歩いているのに、安易にADHDと決めつけてしまうケースもあるという。

 加藤医師はこう助言する。

「受診者の急増に医療現場が追いついていない部分はある。まずは各地の発達障害者支援センターなどで専門の医療機関に問い合わせてほしい」

 アンケートでは、58%の医師が診断後の「治療法・ソリューション」も課題と答えた。「診断そのものは重要でなく、特性にどう対応すればいいかを考える必要がある」(小児科・50代女性)といった医師の声も少なくなかった。発達障害は、根本的に「治る」ものではない。

「医療にできるのは、本人にあわせた環境調整や、社会スキルを身につけるなど生活療法の提案です。成人向けのプログラムの確立は課題でした」(加藤医師)

 烏山病院ではASDを対象にデイケアを10年以上行ってきた。中断率1割以下、3年以内の就職率55%という実績をもとにショートケアプログラムを開発。18年から診療報酬化され、全国の施設で実施されつつある。

 成人・小児の発達障害と25年以上向き合ってきた、横浜市中部地域療育センター所長の高木一江医師も、特性にどう対応するかが重要と考えている。診断後の保護者の反応は「早くわかってよかった」「診断名だけは聞きたくなかった」とさまざま。高木医師は無理に納得させることはせず、保護者の気持ちをくみ取り、育て方や支援の受け方についてアドバイスしてきた。

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