そんな「危ない交差点」に、特徴はあるのか。

 平日の午後4時過ぎ、野町交差点を訪ねた。都内の主要道路「山手通り」の側道と「川越街道」が交わる四差路。山手通りは左折・直進兼用レーンと右折レーンの片側2車線で、上部には首都高速5号線が走る。川越街道は片側2車線だ。

 17年にここで起きた19件の人身事故のうち、右折車と向かい側から来る直進車との事故が14件を占めた。警視庁によると、右折直進の一因は「信号の変わり目での無理な右折による」という。帰宅ラッシュには少し早い時間帯だが、都心と郊外を結ぶ分岐点となる場所だけあって、信号が赤に変わる直前も車が慌ただしく交差点に入っていく。右折を待つ車のドライバーは、高速道路の支柱などが邪魔になって、直進してくる車の様子を確認しづらそうだ。

 元警察庁科学警察研究所で交通事故の鑑定や分析を担当していた山梨大学大学院の伊藤安海(やすみ)教授(安全医工学)はこう話す。

「見通しがよい交差点でも見通しが悪い交差点でも、事故は起きている。事故が起きやすいのは、見ないといけない情報が多い交差点。情報が多いと、有効視野が狭くなります」

 有効視野とは、何かを注視しているときに有効に情報を得られる範囲。その視野が、見るものが多くなるほど狭くなり、出合い頭の事故などにつながる恐れがあるという。

 特に危険なのは「右折時」だ。「左折時」に比べ、対向車や右折先を通行する歩行者など、見るべきものが多い。対向車の後方から突然二輪車が飛び出してくることもある。警察庁によれば、18年に全国の交差点内で起きた右折時の車同士の事故は2万8300件で左折時(1万3389件)の2倍。右折時の死亡事故は159件で左折時(44件)の3倍を超えるなど、重大事故につながるケースが多い。大津市の事故も、右折車が直進車と衝突したことで起きた。伊藤教授は言う。

「右折時は歩行者や自転車だけでなく、対向車にも注意をしなければいけない。そのため、有効視野はより狭くなり、事故につながりやすくなります」

 ドライバーの交通心理について帝塚山大学(奈良県)の蓮花一己(れんげかつみ)学長(交通心理学)はこう話す。

「車を運転していると『急ぎの心理』が生じがち。例えば約束の時間に遅れそうになると、急がなければという気持ちがわいてくる。そうした時に、一時停止を無視したり、左右の確認を怠ったりする『手抜き』が起きると事故につながります」

 蓮花学長によれば、交差点ではドライバーは見る対象が多く「情報負荷」が高くなる。さらに右折の場合は、ウィンカーを出したりブレーキをかけて確認したり、ハンドルを回すなど操作・行動系が複雑になるという。

「普段同じ道を運転しているドライバーは、習慣的な行動が身についているため自分は大丈夫と過信する。しかしそこに突然、対向車が直進してくるなど予測しない出来事が起こると事故を起こしてしまう」(蓮花学長)

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年6月17日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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