2.5次元というジャンルが広がっていく中で、制作者側の人材も厚みを増した。肉体表現とハンドルだけで「弱虫ペダル」の世界を見事に表現した「惑星ピスタチオ」の西田シャトナー、プロジェクションマッピングなどの演出に定評のあるウォーリー木下、「柿喰う客」の中屋敷法仁(のりひと)など、独自の演劇的手法を持つ演出家がどんどん関わることにより、2次元を演劇的に変換する表現の質が向上する。

 ミュージカル『薄桜鬼(はくおうき)』シリーズなど多くの2.5次元作品の演出や脚本を手掛ける毛利亘宏(43)は言う。

「12年くらいから、僕と同年代の小劇場の担い手が2.5次元作品に流れ、作品数も増えた印象があります。小劇場ブームが終わって久しく、活気を失っていた演劇界に2.5次元が登場し、自分たちが活躍できる場所を見つけたという思いです」

 2.5次元市場をさらに大きくしたのは、この数年で作品数が増えたゲーム原作、とくにソーシャルゲーム原作という新たな潮流だ。なかでも「刀剣乱舞-ONLINE-」(とうらぶ)を原案とした作品の人気は凄まじい。前出の松田は言う。

「『テニミュ』の次のターニングポイントは、やっぱり『刀剣乱舞』だと思う。モンスターですよね」

 とうらぶは日本の名だたる刀剣が戦士の姿になった「刀剣男士」を収集・強化し、敵を討伐していく刀剣育成シミュレーションゲームだ。日本の歴史、生死に関わってきた刀剣という要素、そして個性豊かなキャラクターに心を掴まれる女性は多い。しかも、ミュージカルとライブでの二部構成で魅せるミュージカル『刀剣乱舞』(刀ミュ)と、シリアスなストレートプレイの舞台『刀剣乱舞』(刀ステ)の二つがある。

「ゲームの物語は一つじゃない。いろんな展開ができるんです」(松田)

 ちなみに昨年末、第69回NHK紅白歌合戦で「世界で人気のジャパンカルチャー」コーナーに登場したのは、刀ミュの刀剣男士だ。三日月宗近(みかづき・むねちか)(黒羽麻璃央 くろば・まりお)ら、19振りの刀剣男士が素晴らしいパフォーマンスを披露した。一方、重厚なストーリーと圧巻の殺陣が特長の刀ステは、公演を収録したBlu-ray&DVDがオリコンウィークリーチャートで総合1位を何作も取るなど、それぞれの魅力で幅広くファンを獲得している。(ライター・大道絵里子)

AERA 2019年5月27日号より抜粋