江戸っ子が「女房を質に入れてでも」と好んだ初鰹。初物を食べると寿命が75日延びる、とも(写真/筆者提供)
江戸っ子が「女房を質に入れてでも」と好んだ初鰹。初物を食べると寿命が75日延びる、とも(写真/筆者提供)
表面を藁焼きした初鰹の握り寿司。さっぱりとした味が初夏にぴったり(写真/筆者提供)
表面を藁焼きした初鰹の握り寿司。さっぱりとした味が初夏にぴったり(写真/筆者提供)

「目には青葉 山ホトトギス 初鰹」

【写真】初夏にぴったりの初鰹の握り寿司はこちら!

 江戸時代の俳人・山口素堂が詠んだこの句を、皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

 目にも鮮やかな木々の「青葉」、心に染み入るきれいな鳴き声の「ホトトギス」、そしてこの時期に旬を迎える「初鰹」は、春から初夏にかけて、江戸の人々が好んだものです。

 鰹は、比較的暖かい海を好む外洋性の回遊魚で、わが国でも太古の昔から食用にされており、縄文時代の遺跡からも、動物の骨で作った釣り針と一緒に鰹の骨が出土しています。我々昭和世代には、日曜夕方に放送されるアニメのわんぱく坊主の名前でもなじみ深い魚です。

「初鰹」とは、春から初夏にかけて、黒潮に乗って太平洋岸を北上してくる鰹のことです。これに対して、晩秋にかけて、北海道の南あたりから南下してくるものを「戻り鰹」と呼びます。「戻り鰹」が餌をたっぷり食べて脂が乗ってもちもちの食感なのに対して、「初鰹」は、比較的さっぱりして、これから暑くなる今の時期にぴったりの味わいです。

 江戸時代の人々にとって、初物を食べることはとても縁起が良いとされており、「まな板に 小判一枚 初鰹」という句が詠まれるほど高価でもありました。また初物を食べると75日長生きできると言われており、「女房を質に入れても初鰹」と、現代ではコンプライアンス上問題になるような川柳も読まれています。

 漁法としては、一本釣りと巻き網漁が一般的ですが、巻き網漁が大きな群れを網でまさに一網打尽にするのに対し、一本釣りは、群れの中に疑似餌をつけた針を投入し、一匹一匹釣り上げます。見た目は豪快ですが、効率の悪い漁です。船べりに並んだ漁師さんたちが、竿を振って鰹を一匹ずつ船上に放り投げている映像を見たことのある方も多いと思います。

 一本釣りの方が、味はおいしいとされています。身割れや内出血をしにくく、生きた鰹をきれいな身のまま、マイナス50度で瞬間冷凍するためです。

 カットした鰹の表面を藁の炎で焼くことを「藁焼き」といいます。そうすることで、藁の香りが鰹につき何とも言えない食欲をそそる風味になることに加え、いい具合に焼き目が付きき、皮下の脂が溶けて程よく身になじみ、身はほとんど生のままという、理想的な鰹のたたきが出来上がるのです。

 このように、漁獲の時期から、捕り方、加工方法、焼き方にまでこだわった「藁焼きの初鰹のたたき」は今しか食べられない、まさに旬の極みの一品です。皆さんも、初鰹を食べて、75日長生きしませんか? もちろんくら寿司のお店でも食べられますよ。

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◯岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、18年12月から「くら寿司株式会社」広報担当

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岡本浩之

岡本浩之

おかもと・ひろゆき/1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長。

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