──今年7月に行われる氷艶「月光かりの如く」では、主役の光源氏を演じます。

高橋:光源氏は美形なので僕とは真逆のイメージで、どちらかというとユヅ(羽生結弦)のほうが向いているかも。でも僕の性格は、光源氏に被ります。恋多き男で、いろいろな人と関わるけれど、結局は人の孤独に気づく。自分も、「人間結局は独りだよね」と思うタイプなんです。裏切られると思っているのに人に依存してしまって、1人では生きていけない。そして孤独になった時に「人は裏切るもんだ」と思う。そんな自分がいるので、光源氏という役には自然と入り込めるんです。

──今回は、宝塚出身など役者さんと共演されますね。

高橋:役者さんと共演するうえで、違う挑戦心が今回は芽生えています。歌舞伎の時も、殺陣でも、本気でウワーと来られた時に夢中で返す自分がいて、「こんな自分がいるんだ」と衝撃的でした。今回もどんな自分が出てくるのかが楽しみです。前回の氷艶から2年経って、自分がどう変わったか。前回とはまた違う自分を見せられるようにと思っています。

──宮本亜門さんが演出を担当しています。Dカンパニー構想のうえでも勉強になりそうです。

高橋:今の僕に演出家はできませんが、まずは今年、演出家の宮本さんとやらせていただくなかで、舞台をどう作るのか、違う畑から見て勉強したいです。歌舞伎とはまた違う経験になると思うので。ひとつひとつの経験はこの先、スケートの舞台を創っていくことにつながるし、つなげていかなくては、と感じています。自分のチャンスをつかむために、よい場だと思っています。

──新しいスケートの舞台ができると、スケーターの将来も変わりますね。

高橋:舞台をやるうえでは、ジャンプよりも、表現、演技で魅せられるスケーターが重要になります。競技で活躍できるのはジャンプが得意なごくわずかなスケーターで、もちろんそこで活躍できるスケーターはまずトップを目指してほしい。でも、ジャンプではない才能を持っている人もいます。いまはジャンプが高度化して、競技年齢も下がってきているので、ますます引退後の活躍の場が必要になっていると思っています。そういう中で、スケーターの選択肢のひとつになれればと思います。

──いつまで、現役での勇姿を見られるのでしょうか。

高橋:今回の現役復帰は、「これから一生現役」という気持ちでの復帰で、一生引退するつもりはないです(笑)。人様に見せられるパフォーマンスができなくなるまでやろう、という意味です。これからショーをつくりたいけれど、ショーづくりも自分自身が動けてこそできるもの。人に言うのは簡単だけど、自分が動いていかないとつくり上げられないと感じています。いずれ連盟登録選手ではなくなっても、気持ちは引退しません。滑れなくなるときが引退だと思っていて、だから一生現役です。

(ライター・野口美恵)

※AERA 2019年4月29日-2019年5月6日合併号より抜粋