「大手さんの新規参入ということで驚きはありつつも、完全食市場全体の発展を見据えてポジティブに受け止めています」

 この原稿を書いている最中にも、イギリスの完全栄養食「Huel(ヒュエル)」が日本に上陸したというニュースが入ってきた。

 そもそも医学的に見て「完全食」は存在するのか。『9割の人が栄養不足で早死にする!』の著書がある新宿溝口クリニックの溝口徹院長はこう話す。

「現在の『完全食』は、厚労省が定める必要栄養素を基準としていますが、それだけとればOKではない。たとえば抗酸化作用を持つ色素成分のカロテノイドやアントシアニンなど、厚労省が基準値を定めていなくても人間に必要な栄養素は無数にありますが、これらについての表示はありません。必要量や種類はライフスタイルによっても異なるので、『完全食』だけに頼るのではなく、いろいろな食品で栄養をとることが大切です」

 一方で溝口院長は、きちんとした食事がとれないときの代替としてであれば、完全食は有効な栄養補給になるとも指摘する。

「食事に気を使っている方でも検査すると栄養不足の人は多い。とくにタンパク質は『現状の3~4倍は必要』と伝えています。その点、完全食パスタは1食で卵5~6個分と並ぶ量のタンパク質を含む。即席めんやファストフードの代わりに完全食パスタを食べたり、おやつやジュースの代わりに完全食グミやドリンクをとればよいでしょう」

 実は溝口院長も、かつて「完全食ラーメン」の開発に挑戦したことがあるという。

「麺は小麦が増えればおいしくなる一方、糖質が増えてタンパク質は減る。そこにビタミンやミネラルを混ぜ込もうと思ったらもう大変です。結局、味と値段の問題で、頓挫しました」

 完全な人間が存在しないように、完全な食品もまた、存在しないのだ。(編集部・福井しほ)

AERA 2019年4月22号より抜粋

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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