空港でファンにサインをするイニエスタ選手(c)朝日新聞社
空港でファンにサインをするイニエスタ選手(c)朝日新聞社
 

 現代サッカーにおいてクラブチーム“最強”の呼び声が高い「FCバルセロナ」。地中海に面したスペイン北東部の都市バルセロナを本拠地とし、FWメッシやスアレス、DFピケといったスター選手を抱える人気クラブだ。創設は1899年。「バルサ」の愛称で親しまれ、これまでもDFクーマンやプジョル、MFマラドーナ、グァルディオラ、FWクライフ、ロナウドといった数々の名選手が在籍しただけでなく、世界中のサッカーファンを熱狂させた漫画「キャプテン翼」の主人公・大空翼も、青年期にFCバルセロナに“入団”するなど、子どもから大人まで愛されている。

 そのFCバルセロナのレギュラーとして活躍し続けたMFイニエスタが、昨年5月、Jリーグのヴィッセル神戸に移籍したのも記憶に新しい。イニエスタは、バルセロナで9度の国内リーグ制覇と4度の欧州チャンピオンズリーグ優勝を経験。スペイン代表としては2010年ワールドカップで世界の頂点に立った。繊細なボールタッチで相手を交わすドリブル、狭いスペースにも正確に通すパスを武器とし、長らくトップレベルのチャンスメーカーとして活躍してきた。

“魔術師”の誠実すぎる人柄と心の美しさ

 母国スペインで「El Ilusionista(魔術師)」という異名で呼ばれるイニエスタは、同時に誠実な人柄でも人々を魅了してきた。プレー同様、心もとことん美しい。

 2010年のW杯決勝で決勝ゴールを挙げた際は、ユニフォームを脱いで「ダニ・ハルケ、いつも僕らとともに」と手書きで記されたインナーシャツを披露。10代のころ、 U-19スペイン代表でチームメートだったダニは、09年夏に急性心筋梗塞で息を引き取っていた。試合中にユニフォームを脱ぐ行為にはイエローカードが提示されるが、それでも友人思いのイニエスタは亡き友と喜びを分かち合わずにはいられなかった。白血病の子どもがいれば、自ら病院を訪れ、直接励ましの言葉を伝えた。

 神戸への移籍が決まった際は、礼節を欠くまいと、事前にチームメートになる選手たちの写真と名前をしっかりとチェックして来日したという。かつてバルセロナでともにプレーしたシャビいわく「誰かに汚い言葉やジェスチャーを繰り出したことは全くない」。イニエスタは15年以上に及ぶプロ生活で800試合以上に出場しながら、レッドカード、つまり退場処分を受けたことはただの一度もない。チームメートだけでなく、対戦相手と審判にも敬意を払ってきた証しと言っていいだろう。

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バルセロナの哲学「五つの価値観」