日本の「バルサアカデミー」でカントリーマネージャーを務めるヘスースさん(写真/菅野浩二)

 イニエスタは少年時代をバルセロナの下部組織で過ごした。12歳で親元を離れ、クラブのスタジアムと練習場のすぐそばに建つ「ラ・マシア」という選手寮に入寮している。そのときの環境が人間形成に及ぼした影響は決して小さくない。

 ラ・マシアは世界最高峰のプロサッカー選手育成機関であると同時に、人間教育にも力を入れている。起床や食事、就寝の時間が決められており、規則正しい毎日を過ごす。テストの成績が悪ければ試合に出られないこともある。日々の生活でも重視されているのは、「謙虚さ」「努力」「チームワーク」「野心」「敬意」という「五つの価値観」だ。

「バルセロナの育成哲学の根底には、一人の選手であると同時に一人の人間としてしっかり成長させてあげる、という思いがあります」

 こう話すのは、日本の「バルサアカデミー」でカントリーマネージャーを務めるヘスース・アルマンサ・モンセラトさんだ。バルセロナで生まれたヘスースさんはカタルーニャ選抜U−18やプロクラブのFCアンドラなどでプレーした経歴を持つ。イスタンブールのバルサアカデミーのディレクターなどを経て、2018年夏から現職を務める。

 サッカースクールであるバルサアカデミーは世界40カ所以上に点在。うち、日本には葛飾校、品川大井町校、奈良校、福岡校がある。ヘスースさんは、それら四つのスクールを統括。クラブの哲学に基づいたサッカーの普及と選手の育成を目的とし、イニエスタだけでなく、メッシや日本サッカー界の未来を背負うと期待されている久保建英(FC東京)が学んだバルセロナの下部組織とほぼ同じメソッドでサッカーのトレーニングが行われる。

バルサが「人」を大切にする理由

 日本でバルサアカデミーの運営を手がけるのが、アメージングスポーツラボジャパンだ。同社の代表取締役社長を務める浜田満さんはこう話す。

「バルサアカデミーでは、サッカーを通した豊かな人間形成を大きな目標に掲げています。バルサが『人』を大切にするのは、このクラブが『人』に支えられてきた面もあるかもしれません。バルセロナは特定の企業ではなく、『ソシオ』というクラブ会員の一人ひとりが会費を支払い、その資金でクラブを運営してきた歴史があります。つまり『人』がどれだけ大切かをわかっている。バルサアカデミーが育む『五つの価値観』も、そういった歩みと無関係ではないと思っています」

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