「安全性に問題はなく、5グラムという少量でも一定の効果が確認されました。治療だけでなく、予防にも効果が期待されるのではないかと考えています」

 同センターは現在、スギ花粉米の量を80グラムに増やした臨床研究も始めている。

「臨床研究を重ね、花粉症の治癒や予防に最適の量と期間を見極める必要があります」

 続けやすさも確認され、対象者の96%以上が継続的にスギ花粉米を摂取した。田中副院長は、舌下免疫療法と比較してメリットは他にもあると言う。

 一つは、副作用のアナフィラキシーショックが抑制される点だ。舌下免疫療法はスギ花粉から抽出した抗原をそのまま服用するため、過剰なアレルギー反応を引き起こすケースがある。スギ花粉米は遺伝子組み換え技術で抗原の一部分(ペプチド)だけを蓄積させているため、こうした作用を抑制できる。

 二つ目は、全身の免疫を司る腸まで抗原が届く点だ。舌下免疫療法だと、スギ花粉抗原が腸にたどり着くまでに胃液や膵液などで消化される。一方、スギ花粉米は米の胚乳内のプロテインボディという消化されにくい顆粒に抗原があるため、組成を保ったまま腸まで運ばれる。

 田中副院長は花粉米の応用の可能性にも言及する。

「スギ花粉米の治療法が確立できれば、遺伝子組み換え技術によってヒノキや食物などの別のアレルギーやダニアレルギーに加え、リウマチなどの自己免疫疾患にも応用できます」

 同センターは近く研究結果を論文にまとめ、製薬会社などの参画を募る。パートナー企業が見つかり次第、臨床試験などを経て実用化に踏み出す方針だ。

 また、コストを低く抑えるためには大規模な生産拠点の確保も課題となる。一般農場で栽培するには、遺伝子組み換え生物の使用などを規制する「カルタヘナ法」に基づき、農水大臣と環境大臣の承認も必要だ。(編集部・渡辺豪)

AERA 2019年2月18日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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