半年に及ぶ抗がん剤治療と、手術によって失われた乳房を再建する手術を受け、約1年で大掛かりな治療を終えた。

 ちょうどそのタイミングで、社内の別の部署の女性が乳がんの治療を開始した。抗がん剤治療を受けても仕事が続けられるか心配だと、その女性が医務室で打ち明けたところ、悩みを聞いた保健師が、一足先に治療を終えた本社の女性社員に事情を話し、橋渡しをした。他部署の女性は、安心して治療に臨むことができ、仕事もうまく両立しているという。

 本社の女性は言う。

「その後、私と彼女と、それぞれが社内で見つけた、同じ時期に乳がんに罹患した社員ともつながることができ、4人のプライベートなつながりが生まれました。私は病院の患者会だと、価値観が違ってうまくつながれず、悶々(もんもん)としていたので、ありがたかったです」

 同じ病気や障害のある仲間同士で支え合う療法を、「ピアカウンセリング」という。コーセーでは、保健師の小さな働きかけが契機となり、「社内ピアカウンセリング」の輪が広がった。筆者は1月中旬の週末に、その集まりに参加させてもらったのだが、彼女たちの間で、抗がん剤で抜けた髪をカバーする「ウィッグ」の貸し借りをしていて、「妖怪毛ちらし」などと笑いあい、気兼ねないコミュニケーションをしている風景を目の当たりにした。

 前出の武田さんは、近年、育児や介護と同様、「がんと仕事」のテーマも、ライフコースで起こりうる「当たり前のこと」と捉えられるようになってきたのはいい兆しだと話す。

「治療で疲れている人にそっと『大丈夫?』と声をかけ休養を取ってもらうのは、『配慮』であって、制度じゃない。そうしたさりげない配慮が積み上がれば、その会社の『風土』になる。だから、特別な制度がなくても、そういう会社はうまく回るし、自然と病気のことも開示しやすくなりますよね」

(ノンフィクションライター・古川雅子、編集部・野村昌二)

AERA 2019年2月11日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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