●根底にあったのは、差別的な空気への嫌悪感

 左翼と右翼の若者。共通する行動原理があるとすれば、社会の矛盾や理不尽な差別に対する怒りだ。

 右翼団体「憂国我道会」の代表、山口祐二郎(33)も、そんな一人だ。

 もともとノンポリで、神奈川県内の私立大学に進んだがすぐに中退。右翼に入れば「お金持ちになれモテるだろう」と理由もなく思い、21歳のときある右翼団体に入会した。金持ちになることもモテることもなかったが、根底にあったのが差別的な空気への嫌悪感だ。同じころ、ヘイトスピーチを行う「在日特権を許さない市民の会」(在特会)が活動を始めた。「愛国」とも「憂国」ともかけ離れたことを行いながら「行動する保守」を名乗る彼らがどうしても許せなかった。

「レイシスト集団は実際にはない在日特権という嘘を掲げ、拉致問題を利用し、自らを愛国者と称し日の丸を揚げ、在日朝鮮人への差別を扇動している」

 27歳で憂国我道会の前身となる「我道会」を結成した。「アメリカ従属体制からの脱却」「戦争の負の反省」、そして「ヘイトスピーチ反対」にも取り組む。現在、同会の会員は約40人。反差別を掲げる同会には、反皇室メンバーもLGBTの当事者もいる。

 山口はヘイトスピーチをともなった街宣には激しく抗議する。別の右翼などから「北朝鮮のスパイ」などと罵声を浴びせられ、殴りかかられ、負傷することもしばしば。それでも強権と対峙し、社会的に弱い立場にある人のために尽くしたい、それが右翼の役割だからと力を込める。

「いじめがなくならないように、差別も完全にはなくならない。けれどモグラたたきのようにつぶしていく。生きている限り、自分が正しいと思ったことをやっていきます」(文中敬称略)(編集部・野村昌二)

AERA 2019年1月28日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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