そんな彼がいま取り組んでいるのが「難民問題」だ。東京都港区の森美術館「カタストロフと美術のちから展」(20日まで)に展示中の「オデッセイ」は、横幅13メートルの巨大な壁画。鉄条網の前に並ぶ人々などが描かれている。17年の横浜トリエンナーレでは美術館の壁面に救命ボートを配し、柱に難民が実際に着用したライフジャケット800着を展示するインスタレーションを発表した。

 最新作のドキュメンタリー映画「ヒューマン・フロー 大地漂流」では、シリア難民、ガザのパレスチナ人など、23カ国40カ所の難民キャンプを巡り、カメラに収めた。ドローンを駆使した映像はときに息をのむほどに美しく、そのなかでウェイウェイは難民たちに声をかけ、ユーモアを交えたやりとりをする。

 シリア難民と旅をした経験を持つジャーナリスト・丸山ゴンザレスさん(41)は試写会後のトークイベントでこう話した。

「難民は“数字”じゃない。普通の若者だったり、つい先日まで裕福な暮らしをしていた人もいる。僕の服装を見て『お前は日本から難民で来たのか』と同情されたこともあります(笑)。彼らを自分と同じ“人間”として感じることが、難民問題を知る第一歩だと思う」

 映画も同じ体験をさせてくれるはずだ。(ライター・中村千晶)

AERA 2019年1月21日号