また補欠合格者の選定でも、臼井前理事長が学務課職員に指示し、名簿で上位の5人を飛ばす形で、特定の受験生に電話連絡し、繰り上げ合格させていた。この5人はいずれも女性だった疑いがある。

 驚くのは明らかな「性別」や「学歴」による「差別」を、「調整」という言葉で正当化してきた大学側の意識だ。一般常識とはかけ離れた「医学部ムラ」の論理は東京医大に限ったものではないと社会学者・新雅史氏は指摘する。また、こうした不祥事が私立大学で続いていることについて、国立大学に比べ、私立大学が圧倒的に経営のガバナンスが厳しく、結果、理事長など経営陣の意向が入学試験にも反映されやすいからではないかと推測する。

「最先端の医療研究を主体とする国立大学に比べ、大学経営の中心が臨床である私立大学では、理事会の意向を忖度し、忠実に働いてくれる研修医が必要不可欠。卒業後も大学病院で即戦力として長く働いてくれる人材を探している。また手術を手がける外科を中心とする医局は、いまだに男の戦場という認識が強い。老舗の医科大ほど手術室における女性の割合を気にする傾向がある」(新氏)

 事実、大学の経営陣にも名を連ねる入試委員が「女性は妊娠や出産というライフイベントがある」「女性医師を増やすと医療崩壊の危険がある」など女性差別を容認していたと報告書では指摘されている。

 こうした不正入試を受け、受験生らが東京医大に慰謝料を集団請求する動きも始まった。文科省で会見を行った「医学部入試における女性差別対策弁護団」は、2006年以降に東京医大を受験した女性、およそ20人が、入試成績の開示、受験料の返還、慰謝料を東京医大に対して請求すると発表。同弁護団は、東京医大が不正をしていた期間からすると被害者は少なくとも2万人以上で、不正入試の発覚後、55件の相談が寄せられたほか、10月24日までに139件のメールも届いたと発表した。

 会見では現役医科大生も実名で発言した。筑波大学医学群6年生の山本結さん(24)は、浪人生は声をあげたくても受験勉強に忙しく、実名で声をあげるのは困難とした上で、こう語気を強めた。

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