『竹内文書』によれば、ゴルゴタの丘で処刑されたのは身代わりの弟だったという。キリストは生き延び、船で青森県の八戸にたどり着き、戸来へ。そこで日本人女性と結婚し3女をもうけ、106歳で死んだ──。
敬虔なクリスチャンが聞けば卒倒しそうな話だが、村にはマスコミや学者も押しかけるようになり全国に広がった。
異説を裏付けるような材料もそろっていた。
「当時の村名『戸来』は『ヘブライ』に由来すると言われました。また、村には子どもの額に十字を墨で描く風習があった。そんな傍証もつけ加わったのです」(永野さん)
村でも「まんざら見当違いではなさそうだ」との声が強まり、64年から観光行事としてキリスト祭を行うことに。今や村をあげてキリスト来村説を歓迎し、墓を取り囲んで「ナニャドヤラ」を奉納するのだ。
東北──。かつて時の中央政府から「蝦夷(えみし)」と呼ばれた人々が住んだこの地には、摩訶不思議な話が多い。
秋田県鹿角(かづの)市にはピラミッドとストーンサークル。岩手県遠野市には河童伝説。青森県外ケ浜町には、はるか南の平泉で没したはずの義経伝説が残る。福島市飯野町の千貫森(せんがんもり)は数多くのUFOが目撃される「聖地」だ。
鹿角市にあり「日本のピラミッド」と呼ばれているのは黒又山(くろまたやま)。標高281メートルで、形のよい三角形の山姿は、離れて見るとピラミッドに見えなくもない。
実は、黒又山=ピラミッドという壮大な仮説は昭和初期からある。山の南西2キロに、約4千年前の縄文時代の遺跡・ストーンサークルがあり、ピラミッドは縄文人が造ったのではないかなどといわれた。1992年、東北学院大学教授をリーダーとした学術調査隊が現地に入りナゾに迫った。地中レーダー探査の結果、山がピラミッドかどうかはっきりしないが、祭祀を行う場所だったことは間違いないと結論づけた。
教科書に載っている歴史とは違う異説は、「偽史」とも呼ばれる。それらをとりまく人々や社会を調べている評論家で『偽史冒険世界 カルト本の百年』などの著書がある長山靖生さんは、東北に摩訶不思議な話が多いのは、地理的条件が大きく関係していると見る。