「4世紀に大和朝廷が成立すると、古事記や日本書紀などによって神話が文章化され、政権が公認する『正史』が成立します。またその過程で、畿内から西には一つの統一文化圏が成立していきました。そういうところに、キリストの墓やピラミッドがあるという話を押し込むことはできない。それに対し、東北は中央に取り込まれなかった分、伝説などが入り込む余地があったのではないでしょうか」

 キリストの墓、ピラミッド、UFO──。念のため、あなたが今読んでいるのは「ムー」ではなく「アエラ」だ。オカルトめいたこれらの異説について、「反オカルト」の立場で知られる早稲田大学名誉教授の大槻義彦さんはどう考えるのか。

「東北の人たちは自然の中で生活してきた。だから、いろんな不思議な想像をするのです」

 大槻さん自身、宮城県出身の東北人だ。例えば、昔の東北の農家では養蚕が盛んで、夜中にもざわざわと物音がし、人がいる気配を感じさせた。人々はそこから様々な想像を広げ、不思議な物語をつくったとみる。

 大槻さんはもう1点、気候などの自然環境が過酷だったことで、かつて厳しい生活を強いられていたという東北の歴史的背景も、風変わりな伝説が多いことに影響していると話す。

「気候が厳しい東北はその昔、他の地域より生活が苦しく、十分な教育を受けて科学的知識を育むことができない人たちがいました。しかし自然との触れ合いは豊かで、想像力は膨らんだ。それが不思議な話を生み出す土壌になったのです」

 東北の人たちは、荒唐無稽な話も非科学的な妄想だと拒絶することなく受け入れてきたのだ。

 福島市飯野町。町の北側にそびえる千貫森(標高462メートル)。この山では大正時代から「ひかりもの」という発光物体がたびたび目撃されている。

「地底に強力な磁場があって、山自体がUFOを呼び寄せるパラボラアンテナの役割を果たしているからだと思います」

 そう持論を展開するのは、山の中腹に立つ「UFOふれあい館」の元館長でUFO研究家の木下次男(つぎお)さん(71)。すでに6回もUFOを「目撃」したことがあるという。

 木下さんが最初にUFOを見たのは72年、25歳のとき。福島県中部の安達太良(あだたら)連山を仲間と登る途中、山頂付近にヘルメット形の物体が現れた。1円玉のような少し鈍い銀色。空中で約30秒静止し、目をそらした瞬間に消えていたという。

 超常現象か、ただの見間違えか。UFOの存在を証明することは難しい。だが、大切なのは興味をつきつめる探究心だ。いまもUFOに思いを巡らしているという木下さんは熱く語った。

「自由に考える人間の心の広さは、宇宙の広さに匹敵します」

 夢とロマンを愛する東北人。その気持ちが、何かと世知辛い世の中に、どこかうれしい。(編集部・野村昌二)

AERA 2018年10月22日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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