「その人たち皆が寺では仲良く話をしてるんです」

 IT時代にあって、若い世代はSNSにみられるように、「自分が選んだ人」としか話をしない傾向がある。しかし寺で、SNSでは決して縁することのない人とも触れ合う。

「日頃とは違う景色を見ることで、『心の気づき』を与える場所、そしていまという時間に立ち返らせてくれる。お寺とはそんな場所でなければなりません」

 そのお寺が伝える仏教について、池口さんは語った。

「不器用なわたしたちの背中を押してくれるのがお寺という場であり、仏教なのでしょう」

 ファスト宗教とは異なり、個々の末寺は、個人商店よろしく個々の住職の個性が檀家集めを大きく左右する。

 京都大学卒。その後、仏道へ。一見、華麗なるキャリアを誇る池口さん。

 だが、これまでの人生は、一筋縄ではいかなかったという。大学院を中退し、実家の寺を継がず、離婚、そしてシングルファーザーと、思うようにいかない人生の荒波も経験済みだ。

「多くの人にとって、人生ってそんなもんだと思います。償いきれない心の傷を抱えながら、それでも、いま足元にある命の縁をどれだけ生かしていけるかでしょうね……」

 ともすれば世間では僧侶、ひいては仏教に携わる者には、世俗に暮らすわたしたちよりも一段高いところに立った「聖人君子」ぶりを期待するところがある。しかし時代は移ろい、前出の光誉さんも含め、わたしたちの目線に降りてきて一緒に悩み、考えてくれる僧侶が、いま求められているのかもしれない。

 時代を敏感に察知し、10年前からみずからの思うところに従って動いてきた30代の若き僧侶たちの動きに、中堅ともいえる50代僧侶も呼応する。

「参拝者が高齢化し、寺に足を運ばなくなった。一方で若い方は興味が薄い」

 福井県にある浄土真宗照恩寺の住職、朝倉行宣(ぎょうせん)さん(51)は、現状への危機感から、2年前に「テクノ法要」をはじめた。

 朝倉さんは元DJ。その経験を生かし、若者になじみのあるテクノ音楽と念仏を組み合わせたものだ。

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