予備校や塾のチラシや入校案内には、合格実績が数多く掲載される(撮影/写真部・小黒冴夏)
予備校や塾のチラシや入校案内には、合格実績が数多く掲載される(撮影/写真部・小黒冴夏)
鉄緑会とSAPIXなどの創立をめぐる主な動き(AERA 2018年9月24日号より)
鉄緑会とSAPIXなどの創立をめぐる主な動き(AERA 2018年9月24日号より)

 現代は「学歴社会」ではなく「塾歴社会」なのかもしれない――。東大理III合格者の約6割が所属していたという、超ハイクラスな塾「鉄緑会」、そしてその鉄緑会に多くの生徒を入塾させるSAPIXなど、学校以前にどの塾に入れるかが、その後の学歴に大きく影響する時代なのだ。少子化も相まって塾同士の競争が過熱した結果、受験をめぐる歪な構造も生まれ始めている。教育ジャーナリスト・おおたとしまさが報じる。

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 私は以前、東大医学部生を集めた座談会であることに気付いた。参加者の6人中4人が、公文式を経験していたのである。テレビCMでもおなじみのあの「KUMON」だ。彼らは顔を見合わせて、「もしかして、公文式最強!?」と笑った。

 そこでさらに調査した。「東大家庭教師友の会」の協力を得て、現役東大生100人を対象にインターネットでアンケートをとったところ、34人が公文式を経験していた。もちろん簡易な調査ではある。しかしさらに聞き込みを続けると、公文式出身東大生の多くが「公文式が万能だとは思わないけれど、役には立った」と口をそろえた。

 わが子を全て東大理IIIに合格させたことで有名な「佐藤ママ」こと佐藤亮子さんの4人の子どもたちは、全員「公文式→浜学園→鉄緑会」という「塾歴」を持つ。

 公文式とは、毎日与えられたプリントを、できるだけ速く大量に消化することを良しとする「自学自習」の学習法だ。「理解」よりも「前進」に重きを置く。なるほど、公文式で、“受験エリート”になるための素地が鍛えられるのだ。

 公文式に通えば皆、東大に合格するわけでは当然ない。大量に与えられるプリントを毎日こなすことに親子でストレスを感じてしまうことは少なくない。公文関係者であっても「わが子にプリントをやらせるのは一苦労」ともらす。むしろ、ストレスを感じるほうがまともな感性なのではないかとも思う。

 同様に、SAPIXで大量の宿題に追い回され、血眼になる親子も多い。ある父親は、「6年生の2学期以降、日曜日までびっしりSAPIXに通うようになると、家庭での学習時間が足りなくなりました。なんとか課題を消化させるために、学校を休ませたこともありました」と証言する。それでも成績が下降したため、藁(わら)にもすがる思いで個別指導塾に通わせた。SAPIXの課題を効率よく消化するために、さらに別の塾に通うという構造だ。

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