稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
我が家の乾物庫。ヒジキやらワカメやらノリやら。これさえあればビタミン、ミネラルもばっちり(写真:本人提供)
我が家の乾物庫。ヒジキやらワカメやらノリやら。これさえあればビタミン、ミネラルもばっちり(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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*  *  *

 9月は防災月間。いろんなところで防災特集の記事をよく見ます。最近は大きな災害が頻発し、先日も台風や地震の被害があったばかり。備えの意識は高まらざるをえません。

 そのせいか、いわゆる「持たない生活」系の講演をさせていただくと、会場から「災害への備えはどうしているんですか」と聞かれることがあります。最初は唐突な質問に思えたのですが、よく聞くと、「持たない」ことと「いざという時の備え」が矛盾すると思われているらしい。

 なるほど。

 確かに防災記事の多くは「備蓄のススメ」です。水や食料など1週間分は用意すべき、栄養が偏らないようにあれもこれも……となると相当な量になる。で、確かに私、そのような備えは全くしておりません。

 しかし考えてみると不安はちっともないのです。というか、私ほど災害に強い人間はそうはいない気もします。

 そもそも電気代200円以下、ガス契約はしておらず、水の使用は月に約1立米。つまりは日常が「日々是災害」のごとき暮らし。具体的に言えば、家にある米や干し野菜などの乾物と糠漬けなどの漬物で、カセットコンロ1個で1週間は自炊できる。食材が腐る心配もなし。少ない水で洗濯や炊事を賄うのも日常のこと。つまりはライフラインが途絶えてもほぼ「普段と同じ」だよ考えてみれば。

 我ながらそこを目指していたわけじゃなかったので驚きますが、なんだかそんなことになってます。「備蓄のススメ」はモノのストックを勧めているわけですが、私はモノじゃなくてスキルを自分の中にストックしているのです。スキルは腐らないし場所もとらない。自分で言うのもなんですが、これってもう少し注目されていい考え方なんじゃないでしょうか。

 で、何より私が一番自信を持っているスキルは、近所に知り合いがたくさんいること。これもね、冷蔵庫がないからモノをためられず、余分なものはせっせと人様に差し上げているがゆえ。うーん。備蓄の意味を改めて考える。

AERA 2018年9月17日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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