自動車のコマは、過去2回リニューアルされ現在は3代目。こうしたマイナーチェンジを繰り返しながら、ルーレットを回し人生のマス目を進める遊び方は50年間、変わっていない(撮影/鈴木芳果)
自動車のコマは、過去2回リニューアルされ現在は3代目。こうしたマイナーチェンジを繰り返しながら、ルーレットを回し人生のマス目を進める遊び方は50年間、変わっていない(撮影/鈴木芳果)

 人生には山も谷もある──。そう教えてくれたのは、人生ゲームだった。国内での発売から半世紀。世相を映し、進化しながら、今も変わらず、老若男女に愛されている。

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 世が「いざなぎ景気」に沸く1968年9月、人生ゲームは産声を上げた。ルーレットを回してマスからマスへ「車」を動かし、億万長者を夢見る。「人生、山あり谷あり」。テレビから流れるこんなCMは流行語にもなった。

「アメリカンドリームを思わせる一方で、『ありえへんやろ』という内容があったのを覚えてます」

 会社員の男性(45)は振り返る。子どものころ、人生ゲームにはまった。テーブルの上に人生ゲームをドーンと置き、友だちと盛り上がったと楽しそうに話す。

「実家には、ボロボロになった人生ゲームがまだありますよ」

 日本のボードゲームの定番となった人生ゲームだが、実は米国生まれだ。60年に米国で発売された「THE GAME OF LIFE」がベースで、それを68年、タカラ(今のタカラトミー)が日本版「人生ゲーム」として販売した。こうして今年、日本での発売50年を迎えた。ボードゲームとしては異例の長寿を誇る。

 当初は米国版の直訳。そのため「牧場のあとつぎに」だとか、「石油を掘り当てる」だとか、まさに「ありえへん」内容だった。それでも、初代は計300万個が売れ、歴代でもっとも売れた。ヒットの理由はどこにあったのか。

「最大の理由は、リアルな世界観を盛り込み社会を疑似体験できたことだと思います」

 そう話すのは、ボードゲームソムリエとして活躍する松永直樹さん(28)だ。

 それまで日本で盤上のゲームといえば「すごろく」だった。が、遊び方はサイコロを振っていかに早くゴールできるかを競うだけ。ところが、人生ゲームでは結婚したり、株を買ったり、車に乗ったりと、現実の社会を疑似体験できた。

お金のやりとりができる教育的要素もヒットの要因。しかも、サイコロの代わりにルーレットを使うという斬新さがあり、そこに古来より日本に根づくすごろくの文化の後押しもあったと思います」(松永さん)

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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