──なぜ医局に入らなかった?

C:私は医学部生時代に散々言われましたね。「女医さんは医局に入らないとやっていけない」と。完全に洗脳されていたんですけど、大学系列の病院を見学しに行っていろんな話を聞かされて目が覚めました。系列の病院で働かれている40代の女医さんはすでに小学生のお子さんがいるんですけど、その方は「結婚式で医局の教授に祝辞をお願いしたら、祝辞で『とりあえず子どもは産むな』と言われた」と話していました。別の系列病院では医局員の女医さん2人がバトルしている場面にも出くわしました。1人が定時で帰ろうとしたところ、「定時で帰るからミスするのよ」「中途半端に働くのやめてくれない!?」と口げんかしていて、医局に縛られると生きづらそうだなと。自分の意思で、病院を変えたり、働き方を変えたりできなくなりますからね。あと、医局の歓迎会も気持ち悪かった。私は関西の大学を出ているので、初期研修を終えて所属する医局を選択する時期になると、医局歓迎会と称して京都の舞子さんのいる店に連れていかれたり、琵琶湖のクルージングパーティーに招待されたりしたんです。夏は有名ホテルのビアガーデンを貸し切ってパーティーを開いたりもしていました。そういうのに馴染めなかったっていうのもあって、医局に入るのをやめました。

──医局は必要ない?

A:大学の医局が病院の人事を担っているという構図が一番の問題ですね。よくいえば、医局は医師のセーフティーネットとして機能しているんです。働き口を保証してくれるようなものですから。ただ、あまりにも人事権が強いから、大学医学部入試が“入社試験”を兼ねてしまっている。入学して医学部に入れば働き口が保証される、と。大学の運営も病院経営も慈善事業じゃないので、役立つ人を取りたいというのはわかりますけど、教育は平等であるべき。

C:関西は有名私大も数多くある東京と違って、京都大、大阪大などが突出した力を持っています。だから、開業医を目指すならココに入らないと、っていう大学もあるんですよね。ところが、医局をスピンアウトすると、嫌がらせを受ける。「うちでは診れないので緊急の患者を受け入れてほしいとお願いしても、京都中の病院に断られた」と話す開業医も。医局の息がかかった病院に「あいつの病院からは患者を受けるな」と事前にお触れを出しているんです。

B:医局が強いから、裏口入学も横行しているんだと思います。お金をもらって入れてあげた子は、忠誠心が強いですからね。“地域枠”も医局のためのもの。その地元でずっと働きたいという人だけが、地域枠推薦制度で優先的にその地域の大学医学部に入れる制度があるんですけど、先生のなかには「教授の弟子を優先的に入れるためのもの」と言い切っている人もいます。自動的にその教授の医局に入って、いいように働かされる。米国にも大学病院はありますけど、大学と病院は完全に切り離されています。日本もそうしなくては、医局人事に頼った医療業界は変わらないでしょう。(構成/ジャーナリスト・田茂井治)

AERA 2018年8月27日号より抜粋