いま、「縄文」がブームだ。テレビドラマの小道具に縄文土器が登場し、縄文をテーマにしたフリーペーパーが瞬く間になくなり、縄文の講演会に聴衆が詰めかける。人々は「縄文」に何を求めているのか。
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5月12日に東京・二子玉川の蔦屋家電で開かれたトークイベント「縄文×近未来」。出演者が俳優の井浦新、博物学者の荒俣宏と人気の2人だったこともあって、立ち見が出る盛況ぶりだった。主催したのは、化粧品などを扱っているポーラ。
「いま、若い女性の間では縄文が注目されています。縄文文化と近未来をかけあわせたら、どんな化学反応が起きるか考えたんです」(担当者)
店の一角には高さが3メートルもある深紅のオリジナル土偶が屹立し、粘土を貼り付けた胴部に、子どもたちが自由に模様をつけて遊ぶ。会場を訪れた20代の会社員の女性は「縄文の土偶とか、見ていてすごくかわいい。縄文時代にも自由なイメージがあります」と話してくれた。
縄文がブームになってきたのは、ここ数年のことだ。
火付け役になったのが、2015年に創刊されたフリーペーパー「縄文ZINE」だ。名前の通り、縄文プラスMAGAZINEで縄文だけを扱う。土偶のポーズで読者の写真を撮影する「ドグモ(土偶モデル)」などのオリジナル企画が人気だ。
編集長の望月昭秀さんは、無類の「縄文好き」。「縄文はこんなに面白いのに、いまいち人気がないというか、ぱっとしないというか。周囲に話をする人もいなかったので、そんな場が作りたかった」と話す。
発行部数は3万部。読者には、若い女性が目立つという。
「縄文人は自由というイメージがあるけれど、いま、実際にそんな生き方をするのは難しい。ただ、縄文人のようなゆったりした生き方もあるとは知ってほしいと思っています」
芸術家の岡本太郎が1950年代に絶賛し、その美を「再発見」して以来、「縄文」は研究者以外にも、多くのファンを獲得してきた。
現在公開中の映画「縄文にハマる人々」(山岡信貴監督)には、そんなコアな人たちがたくさん登場する。縄文に魅せられて研究にのめり込んだ弁護士、「縄文の湯」を営む温泉オーナー、縄文土器に触発されてコンテンポラリーアートを制作する芸術家──。山岡さんは「縄文の世界観・宇宙観に、縄文土器の文様の意味など、皆さん、語り始めると止まらない。その熱気に触発されて撮影を続けてきた」と話す。訪れた遺跡や博物館は80カ所以上にのぼる。
さらに映画では、30人以上に及ぶ、「縄文好き」たちが、研究者とアマチュアを問わず、縄文の素晴らしさと「自説」をとくとくと語り続ける。
見ていて疲れるというか、あきれるというか……。「でも、縄文が好きな人って、本来、そんな感じ。自由な想像力こそが彼らの源泉なんです」(山岡さん)
しかし、最近増えてきたファンは少し違うようだ。若い世代の女性が中心で、縄文の土偶や深鉢形土器を見て、「かわいい」を連発する。