東日本大震災で見えた「ムスリムたちの共助の姿」から生まれた一冊の本 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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東日本大震災で見えた「ムスリムたちの共助の姿」から生まれた一冊の本

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矢内裕子AERA#読書

森まゆみ(もり・まゆみ)/1954年、東京都文京区動坂生まれ。84年に地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を創刊。2009年の終刊まで編集人を務める。近著に『「五足の靴」をゆく──明治の修学旅行』がある(撮影/大野洋介)

森まゆみ(もり・まゆみ)/1954年、東京都文京区動坂生まれ。84年に地域雑誌「谷中・根津・千駄木」を創刊。2009年の終刊まで編集人を務める。近著に『「五足の靴」をゆく──明治の修学旅行』がある(撮影/大野洋介)

『お隣りのイスラーム 日本に暮らすムスリムに会いにいく』は、日本に暮らすムスリム13人を訪ね、多様で豊かなイスラーム世界を旅する一冊だ。今回は著者の森まゆみさんに、同著に寄せる思いを聞いた。

*  *  *
 森まゆみさんは聞き書きの名手として名高い。地域雑誌「谷中・根津・千駄木(谷根千)」の編集人として東京の町に眠る話を丁寧に書いてきた森さんの新しい本は日本で暮らすムスリムを訪ねた記録だ。

「東日本大震災のあと、東京の大塚モスクが迅速に動いていると知って、手伝いに行きました。そうしたらパキスタン、マレーシア、バングラデシュといったさまざまな国の人たちが協力して働いていて。『これからいわき(福島県)に行くんだけれど、あなたも乗っていく?』って、気軽に言う(笑)。こういう自由な感じ、好きなんですよ」

 集まっているムスリムたちの母語はさまざまなので、会話は日本語か英語だ。

「仮設住宅で布団が足りないと聞けば、すぐに300セット買って配る。自分のお金を出すことをいとわないし、宗教の勧誘をするわけでもない。地元の商店街やお寺とも協力する。聞けば、『困っている人がいたら助けるのはイスラームの教えだから』って。ムスリムの考えや行動が、どこからくるのか知りたくなりました」

 現在、日本に暮らすムスリムは10万人以上。出身国は100カ国以上に及ぶ。森さんはイラン、シリア、クルド、パレスチナなど12の国や地域からきたムスリムに会い、丁寧に話を聞いていく。

「世界中に広がるイスラームの人たちの話を聞くと、一人として同じではなかった。恵まれた立場の人もいれば、留学生、難民として日本に来た人もいます。戒律の厳しさも、国や地域によって差があります」

 日本でためた資金で国に帰って事業を始める人がいる一方、エグザイル(故郷喪失者)にならざるをえない人も。

「一番気をつかったのは、インタビューを受けてくれた人たちに害を及ぼさないように書くこと。政治的な状況が厳しく、言論の自由が少ない国もありますから。故郷へ戻った時に、その人や家族が困るようにはしたくなかった。お会いしたほとんどの人が自分よりも年下でしたが、教えられることも多かったです」

 実は森さん、「谷根千」で、小特集「谷根千のイスラム世界」を組んだことがある。

「2011年、9.11のニューヨークのテロのあと、町の中のイスラームの人たちが暮らしにくいんじゃないか、と、思ったんです。困っている隣人を見捨てないのが、私たちの雑誌の方針でしたから」

 困っている人を見捨てず、助ける──森さんの後ろに、本書に出てきたムスリムの人たちの気配を感じた。

(ライター・矢内裕子)

AERA 7月9日号


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