「ラッパを吹く天使」は、1883年からクリムトが弟のエルンスト・クリムト、友人のフランツ・マッチュとの共同アトリエをウィーンの集合住宅の最上階に無料で与えられた際、その建物の階段に飾るために描かれたと考えられている。クリムトは当時20歳そこそこで、調査結果は年代的にも一致する。

「調査はまだ続いているが、客観的に見てクリムトの絵に間違いない」と科学者たちが結論づける一方、美術評論家の中には「ウィーンのオペラハウスに飾られていた絵で別の画家が描いたもの」「弟が描いたのではないか」といった声のほか、「科学者は分析だけすればよく、絵の判定に口を出すべきでない」と反発の声もある。発表後、各メディアでは「クリムト確定!」「クリムトではない」「若きころのクリムトの作品か」など、さまざまな見出しが躍った。

 ヨーゼフ・レンツ氏は語る。

「絵の愛好家やミュージアムは、絵が本物であることを知る権利がある。これまで美術判定は評論家の経験や勘に負うところが大きかったが、技術発展により精巧な贋作が可能となり、目視だけでは判断が難しい。科学的手法が広まれば、真贋判定の大きな一助となる」

 確かにスポーツ界でもドーピングなどの判定には科学分析が必要で、サッカーもビデオを参考にするようになった。美術界でも最新技術を使うのは時代の流れではないか。クリムトの子孫も調査を歓迎しているという。

 今年、没後100年のクリムト。この絵が本物ならファンにとって最高の贈り物だ。ウィーン市内のミュージアムで展示を予定しているほか、将来日本での展示も検討されている。(ドイツ在住ライター・田口理穂)

AERA 2018年5月21日号