火星探査ローバーに搭載したものと同じ機器を手にするフランツ・レンツ教授(左)と、絵画発見者のヨーゼフ・レンツ氏(撮影/田口理穂)
火星探査ローバーに搭載したものと同じ機器を手にするフランツ・レンツ教授(左)と、絵画発見者のヨーゼフ・レンツ氏(撮影/田口理穂)

 ガレージで見つかった絵はクリムトによるものなのか。火星探査の技術を使って調査した科学者たちは「客観的に見て間違いない」としているが、美術界には懐疑的な声もあり大きな論争を呼んでいる。

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 北ドイツ・ハノーファーのシュプレンゲルミュージアムで4月4日、世界的に有名なグスタフ・クリムト作と思われる絵画「ラッパを吹く天使」の発表会があった。5年間の調査を経て、上塗りが取り除かれ、修復された絵が披露された。

「接吻」で知られるクリムト(1862-1918年)はオーストリア出身の画家で、女性を官能的に描き、金箔を多用した装飾的な手法は日本の琳派に影響を受けたと言われる。「ラッパを吹く天使」は約25年間、行方不明になっていたが、オーストリアで「アンティークのインディアナ・ジョーンズ」の異名を取るアンティーク専門家ヨーゼフ・レンツ氏がさまざまな資料を調べて追跡。ついに2012年、オーストリア・オーバーエスターライヒ州のある住居のガレージで発見した。

 絵は別人の手によって上塗りされており、調査のため、弟でライプニッツ・ハノーファー大学のフランツ・レンツ教授に託された。NASAのプロジェクトにも携わるレンツ教授は、火星探査ローバーに使われている宇宙の最新技術を駆使し、上塗りも含めすべての層の塗料などの成分を分析。筑波大学の大塩寛紀教授が高エネルギー加速器研究機構で検証するなど、世界各国の学者やドイツ・ニーダーザクセン州犯罪局も協力した。

 5年に及ぶ調査の結果、もともとの絵画の表面と、ギプスで覆われた木枠に、クロッキー画などで確認されているクリムトのサインを発見。また、下の絵の緑の塗料は有毒なため1880年代から使用が禁止され、上塗りに使われた塗料は戦後に普及したものであることもわかった。鉄と木の梁で補強された絵の裏側はギプスで固められていたが、その鉄を製造した会社は1901年に廃業。絵が描かれた年代が絞り込まれた。

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