高齢になるほど多い窒息(AERA 2018年4月2日号より)
高齢になるほど多い窒息(AERA 2018年4月2日号より)
嚥下の頭部拳上訓練(AERA 2018年4月2日号より)
嚥下の頭部拳上訓練(AERA 2018年4月2日号より)

 歳を重ねるとどこかに不調を来すことは当たり前。「人生100年時代」に備えるべく、鍛えておきたいのは「口の筋肉」だ。

【図】簡単にできる筋トレ「嚥下の頭部拳上訓練」はこちら

 食べることは栄養を取るだけでなく、人生の楽しみでもある。そのために「歯」の役割は大きい。

「歯自体は人体の中で最も硬いエナメル質で覆われています。出土した遺体は骨と歯だけになっていることからもわかるように、とても丈夫で100年以上は十分持ちます」

 こう話すのは、北海道大学歯学部臨床教授で札幌西円山病院・歯科診療部長の藤本篤士歯科医師だ。とはいえ、歯は酸にはめっぽう弱く、口の中の環境が悪ければ溶かされてむし歯になり、進行すれば抜かざるを得なくなる。

 一方、歯周病になると、歯はしっかりしていても土台の骨や歯ぐきが菌に侵され炎症が起きて、最終的には歯を失う。

 かつて歯を失う人は多かったが、1989年から厚生省(当時)と日本歯科医師会が、80歳で20本以上の歯を残そうと呼び掛けた「8020運動」が実を結び、自分の歯を残せる人は着実に増えている。歯を失った人でも入れ歯やインプラント(人工歯根)で、噛む機能を補うこともできるようになった。

 しかし長年、要介護高齢者が多く入院する病院で「人生の後半20年」の患者の口の中を診てきた藤本歯科医師はこう漏らす。

「歯は大事ですが、歯があれば食べられるわけではありません」

 藤本歯科医師がこの病院に勤務して間もないころ、介護スタッフから「入所してきた70代の男性がほとんど食事を食べなくて困っている」と相談された。診察してみると、自分の歯は残っているし、抜けた部分には入れ歯が入っていて綺麗な状態だった。

「食べ物を口に入れて噛むところまではできるのですが、いつまでも口の中に残ったまま。『飲み込む力(嚥下力)』が低下していて、ゼリーなどのやわらかいものすら食べられない状態でした」(藤本歯科医師)

 飲み込めないのは、そのための筋肉が衰えてしまっているから。嚥下障害は脳梗塞で麻痺がある人など「特別な人に起こるもの」と捉えられがちだが、加齢とともに誰でも筋力は衰える。

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