休耕地となっていた兵庫県養父市の棚田(写真:兵庫県養父市提供)
休耕地となっていた兵庫県養父市の棚田(写真:兵庫県養父市提供)
荒れていた農地を市外の企業が借り受け、参入したことで、再び美しい景観がよみがえった(写真:兵庫県養父市提供)
荒れていた農地を市外の企業が借り受け、参入したことで、再び美しい景観がよみがえった(写真:兵庫県養父市提供)

 安倍政権が鳴り物入りで導入した「国家戦略特区」だが、その経済効果は疑わしい。「岩盤規制」を突破した先に何があったのか。

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 獣医学部新設を巡る「加計学園問題」で、一躍注目されたのが国家戦略特区だ。これは、特定の地域で、規制の緩和や税制の優遇をする特区制度で、安倍政権が「成長戦略の柱」と位置づける看板政策だ。加計学園で問題となった教育分野に限らず、都市再生、医療、農業、雇用、観光など幅広い分野が対象だ。

 2014年5月から認定が始まり、現時点で全国で10区域が指定され、規制改革メニューの活用数は50、認定事業数は264に上る。政府主導で「岩盤規制」が根強かった分野に風穴を開け、新たなビジネスモデルを構築し、民間投資や雇用創出、消費拡大を目指す──特区での成功事例が全国展開されることで、国全体の経済成長につながるという構想だ。

 過去の特区制度では、小泉政権時代の規制改革を主とした「構造改革特区」、規制緩和に税制、金融的なアプローチも加えた民主党政権時代の「総合特区」がある。だが、いずれも地方からの提案に国が対応する「ボトムアップ型」であり、既得権益を持つ業界や省庁が間に入る余地を残しているため、大きな改革にはつながらなかった。

 一方、国家戦略特区は政府主導で規制改革のテーマを決め、それに手を挙げた地域を選定する「トップダウン型」である点が大きく異なる。先行制度もいまだ継続中だが、政府は国家戦略特区を「次元の異なる制度」と自信をみせる。その成功例として真っ先に挙げられるのが、兵庫県養父(やぶ)市の「農業特区」だ。

 人口約2万4千人の養父市。兵庫県北部の但馬(たじま)地域の中央に位置し、市の面積に占める山林の割合は84%。山と谷に囲まれた小さな市だが、「中山間地農業の改革拠点」として国家戦略特区に指定され、4年間で多くの実績を残してきた。たとえば、農地の権利移動の許可を地元の「農業委員会」から養父市に移譲して、農地の流動化を促進。農業生産法人の要件緩和で、企業による農地取得のハードルが下がり、オリックスやクボタなど大手企業の参入を実現させた。現在は、13社が特例を活用して営農し、そのうち4社が農地を取得している。市の課題だった休耕田、耕作放棄地の解消にもつながり、38.5ヘクタールが再生した。陣頭指揮にあたる広瀬栄市長(70)は、これまでの取り組みをこう語る。

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