「その人が働きたいなら、周囲の理解を得て、それができる環境を整えて、最後まで生き切る。これが本来あるべき姿。そうできないのはおかしいよね」

 ソリューション=課題解決が必要だという決意で、2007年に設立したのが「キャンサー・ソリューションズ」だ。

 真っ先に取り組んだのが、がん患者や元患者の人材派遣だ。

 政治にも働きかけた。16年に成立した、事業主が「がん患者の雇用の継続等に配慮するよう努める」ことなどを盛り込んだ「改正がん対策基本法」。桜井さんら患者会は、超党派の国会議員と連携して法案作成の段階から議論に参加した。桜井さんが特に強く要望したのは、「社会的環境整備」(第2条)や「社会教育」(第20条)など、社会全体の意識変革を促す言葉だ。

 いまは、社名から「キャンサー」の文字を消すことが目標。

「がんや医療という分野も超えて、もっともっと社会をよくしていきたい」

 一方で、こうも言う。

「自分も含めたスタッフの健康が一番のリスク」

 がんがいつ再発するかわからない。桜井さんも昨年、再検査を受けて、一時は後継社長の人事も頭をよぎった。

「スタッフが亡くなると動揺しますが、それが結束をさらに強くする力にもなります」

 最近になって気がついた。

「私は人と人をつなげるのが好き。前職も、街づくりを通じて人と人をつなげる仕事だった。いまの仕事も根っこは同じ。人生に無駄なことは一つもない」 (編集部・渡辺豪)

AERA 2018年2月5日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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