電子顕微鏡で見たコリネバクテリウム・ウルセランス菌(1万倍)。ジフテリア菌と同じ仲間で、予防にはジフテリアの予防接種(ワクチン)も有効だと考えられている(国立感染症研究所提供)
電子顕微鏡で見たコリネバクテリウム・ウルセランス菌(1万倍)。ジフテリア菌と同じ仲間で、予防にはジフテリアの予防接種(ワクチン)も有効だと考えられている(国立感染症研究所提供)
【表】主な動物由来感染症(AERA 2018年2月5日号より)
【表】主な動物由来感染症(AERA 2018年2月5日号より)

 2016年、餌をあげていたネコから感染し、女性が呼吸困難で死に至った。 ネコの3.6%が保菌との調査もある。日本の飼いネコ953万匹は安全なのか。

【図表】身近な動物の主な動物由来感染症はこちら

 1月10日、厚生労働省は、国内で初めて「コリネバクテリウム・ウルセランス感染症」による死亡例があったことなどを念頭に、都道府県などに注意を促し、情報提供を依頼した。

 この感染症は、動物から人に感染する「動物由来感染症(人獣共通感染症、ズーノーシス)」の一種。原因となるコリネバクテリウム・ウルセランス菌はイヌやネコ、ウシなどペットや家畜だけでなく、フクロウなど野生動物からも見つかる。症状はジフテリアに似て、喉の痛みやせきなどが生じ、ひどい場合には呼吸困難になって死亡することもある。だがほとんどの場合、医療機関で処方される抗生物質で回復する。

 日本で人への感染は2001年に初めて報告された。確認されている国内の感染例は25件。19件は文献に記載され、うち13件はネコからの感染が疑われている。4件はイヌ。2件は不明。

 国立感染症研究所の岩城正昭研究員によると、この細菌はウシの乳房炎の原因菌として知られていたが、1970年代から生乳を通じた人への感染が海外で報告され始めた。その後、ネコやイヌからも感染したという報告が国内外で相次いだ。

 ただ、「この病気になる人が増えてきたとは限りません。周知が徹底されて医師たちも注目するようになってきたからだという可能性もあります」と岩城研究員は指摘する。

 人から人へ感染した可能性がある事例もわずかながら海外で報告されている。

 国内初の死亡例は福岡県に住んでいた60代の女性で、餌をあげていたネコから感染したと推測される。16年5月、呼吸困難で救急搬送され、3日目に死亡。17年4月の学会で報告された。

 ネコは人にとって最も身近な動物だが、日本のネコはこの菌にどれくらい感染しているのか。

 大阪健康安全基盤研究所の梅田薫研究員らが11年から14年にかけて大阪市内のネコ137匹を調べたところ、5匹(3.6%)からこの菌が検出された。イヌ125匹、ネズミ29匹からは見つからなかった。感染していたネコ5匹はいずれも体調が悪く、うち4匹は飼い主がわからなかった。この5匹から検出された菌は遺伝学的に同じもので、ネコの行動範囲はそれほど広くないことからも、菌がすでに大阪市内のネコに広く分布している可能性が浮上した。

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