格式ある場面の一方で、和菓子や自然派ワイン、中国茶などとのコラボレーションイベントにも力を入れる。

 祇園のアンティークギャラリー「昂-KYOTO-」のオーナー、永松仁美さんは、老舗「鍵善良房」の和菓子と素食のイベント「智美と善也の素食の世界」をコーディネートした。

「素食では、デザートにキンモクセイのようなパンチのきいた素材が使われます。そこを和菓子と組み合わせたらどうだろう、と取り組んでみたら、『はっきりしつつ、奥ゆかしい』という新しい感覚が出現しました。そんな発見が楽しくて」(永松さん)

 京都・亀岡に住む東洋文化研究者、アレックス・カーさんは、自邸の庭を愛でる宴で、松永さんに「創意素食」を依頼した。「美しい紅葉を眺めながら、特別な食事をしてみたかったのです」と、アレックスさんは言う。

 松永さんの「創意素食」は、人々が集まっても、決して賑やかに発散する料理ではない。

「お席ではいつも、ガラスのカップにたっぷりのお茶を用意して、ウォーマーで温め続けます。そのお茶とともに、『見立ての妙』を話題にして、みなさんがゆっくりと会話を交わす。その穏やかな光景が、いちばんの特徴ではないでしょうか」(松永さん)

 非日常の空間ではもちろんのこと、会社での会議など、白熱の中で、いったん心を落ち着かせたい場面にも、向いているのではないか。素食を研究しながら、そのような要請にも応じていきたいと彼女は言う。(ジャーナリスト・清野由美)

AERA 2018年1月15日号より抜粋