「佛跳牆(フォーチュウチャン)」/香りをかぐと、修行中のお坊さんも跳んでくる、という話にちなみ、別名「ぶっとびスープ」。冬虫夏草、クコ、キノコなど薬膳で使われる食材と季節の野菜を使い、3日かけて作る(撮影/楠本涼)
「佛跳牆(フォーチュウチャン)」/香りをかぐと、修行中のお坊さんも跳んでくる、という話にちなみ、別名「ぶっとびスープ」。冬虫夏草、クコ、キノコなど薬膳で使われる食材と季節の野菜を使い、3日かけて作る(撮影/楠本涼)
(左)「ぶっとびスープ」に使うキノコは、山伏茸、きぬがさ茸、きくらげ、干椎茸、干しエリンギなど。珍しいものは、台湾で吟味して入手。(右)まこも、オオタニワタリ、四角豆など、沖縄産の野菜も仕入れて使う(撮影/楠本涼)
(左)「ぶっとびスープ」に使うキノコは、山伏茸、きぬがさ茸、きくらげ、干椎茸、干しエリンギなど。珍しいものは、台湾で吟味して入手。(右)まこも、オオタニワタリ、四角豆など、沖縄産の野菜も仕入れて使う(撮影/楠本涼)

 京都在住の松永智美さんは、ジュエリー作家でありながら「素食研究家」でもある。ナタデココで作ったイカや、こんにゃくのあわびなど、松永さんが生み出すヘルシーで美しい「創意素食」に魅了される人が増えている。

【「ぶっとびスープ」に使う珍しいキノコと野菜はこちら】

 素食はもともと修行僧のための食事であり、信仰心に基づいている。そこには、「三厭(さんえん=鶏、肉、魚)」「五葷(ごくん=ネギ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、タマネギ)」を使わない、という基本的なルールがある。それらはいずれも、人間の気を高ぶらせてしまう材料とされている。

 代わりに、素食では野菜、キノコ、豆類を中心に、体に負担をかけない素材を使う。ゆえに、健康にいい。

「日ごろ、お肉をおなかいっぱい食べている方は、物足りないと思われるかもしれませんが、素食を取り入れることで、身体を休めることができます。私自身、お肉をおいしく食べるために、研究しているようなところがあります(笑)」(松永さん)

 健康面での効用の一方で、「謙虚に食と向き合う」という精神的な意味合いも大きい。

 京都の町には、洗練を極めた料理店がひしめく。日本の食文化の粋ともいえるが、美食、飽食の風潮に乗って、その技巧が行き着くところまで行ってしまった感もある。

 そんな時代にあって、動物性の食材を使わない、という素食の制約が、「食すること」の原点を意識させてくれる。

「創意素食」の活動は現在、折々に企画される法要や茶事、イベントなどが中心になっている。

 これまでに、唐招提寺における高僧のための食事会、京都国立博物館茶室での茶事、古民家を再生した料理店での食事会など、文化的感度の高い場所で料理を提供してきた。

 材料、メニュー、食器など、しつらえはそれぞれの場面に合ったものを毎回考える。「art&eat」と松永さんが呼ぶ通り、見て、味わって、五感が刺激される“食べるアート”である。

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