12月9日の「朝鮮中央通信」によれば、金正恩・朝鮮労働党委員長が白頭山を訪問し、頂上の「将軍峰」とみられるところで撮影した写真が公開された。「核武力建設の完成」を革命の聖地である白頭山で先代の指導者たちに報告するような雰囲気を感じさせ、核抑止力完成によって新たな可能性が生まれることを示唆する内容となっている。

 米国ではティラーソン国務長官が12月12日、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して、「北朝鮮が望む時にいつでも、前提条件なしで対話をする用意がある」と述べた。その後、国家安全保障会議や国務省の報道官が従来の政策に変更がないことを強調したほか、15日の国連安全保障理事会閣僚会議での演説でティラーソン国務長官は「挑発行為を持続的に停止する必要がある」と、自身の発言を事実上撤回するような指摘をした。

 北朝鮮は、13年3月に「経済建設と核武力建設の並進路線」を決定した後、米国の脅威に対して核兵器を通じた抑止力を獲得することを目標に、核・ミサイル開発を加速してきた。核兵器は通常兵器と比べて「安上がり」なことから、人的、物質的資源が「浮いた」。それを、旧ソ連・東欧の社会主義政権が崩壊したことで破滅的に縮小した経済の復興に投入。国民生活の向上も並進路線の重要な一部分だ。国内的には、経済復興への取り組みを強調している。ここ数年で平壌市内を中心に「未来科学者通り」「黎明通り」などで大規模な高層住宅を建設するといった、国民の目に成果が見えるようにすることを重視する政策がいくつも試みられている。

 すなわち「核武力建設の完成」とは、北朝鮮においては米国との「最終戦」への勝利と、その後の経済建設を予感させるものだといえる。北朝鮮国内ではおそらく、制裁による経済の悪化への不安とともに、中期的には核抑止力によってもたらされる平和によって、北朝鮮が国際社会に認められ、経済がより成長していく期待が存在していると考えられる。つまり核実験も弾道ロケット発射実験も、国家の命運をかけた、一貫した政策の実行であり、簡単に米国に妥協できる問題ではない。北朝鮮が核を保持したまま米国との関係を改善し、北朝鮮の生存空間を確保するという目標が達成されるまでは、当分の間続いていくと考えたほうがよい。(環日本海経済研究所・三村光弘)

AERA 2018年1月1-8日合併号より抜粋