かの地で、みそも手づくり。ミネストローネは少し濃いめに作り、翌日、パスタや肉料理のソースにアレンジ。カップ麺は、即席カルボナーラにして食卓へ。そんな親父(おやじ)の手料理が、時々こじれる親子関係をリセットする。

「けんかして冷戦状態でも、『おなかすいた』と言ってきたら、何か作って一緒に食べる。おいしいものを食べると心も落ち着きますから。彼の好物はファストフードと納豆ご飯だけど、それでも毎日、一生懸命料理を作る僕を、彼は見ないふりして見ている。僕が死んだ後、例えばオムライスを食べたら、絶対に僕のことを思い出すと思うんですよ。『一生、親父を思い出せよ』っていうのが、僕の魂胆(笑)」

 親の手料理のありがたさは、後から気がつくものかもしれない。でも、それでいい。パリでの生活も16年目。本音は「日本に帰りたい」けれど、58歳の親父は、息子の「うまい」に支えられて、子育てに奮闘し続ける。老後を考える暇もなく。

「料理をしていると、自分で人生を回せている実感があるんです。最近、書く小説も変わってきました。『エッグマン』は、文学賞を狙って書いていた頃には書けなかったものなんです」

 愚直な親父の性分と優しさから生まれた物語。小説に登場する卵料理とともに召し上がれ。(ライター・松田亜子)

AERA 2017年12月11日号