「このまま生きていけるのだろうかと不安な思いにかられ、胸が苦しくなり眠れなくなります。両親は何とか生きていけると励ましてくれますが、いくら慰められても親のほうが先に死にます」

 かつては、終身雇用と年金というセーフティーネットに守られ、老いても住み慣れた地域で家族に看取られて死ぬことができた。しかし、バブルが崩壊した1990年代以降、非正規労働者の活用が始まり、今や非正規労働者が雇用者の4割近くを占める。ワーキングプアとされる年収200万円以下の人は1千万人超。アベノミクスによる「景気回復」がいわれるが、恩恵を受けるのは、高所得者など一部の人たちだ。しかも、今や日本は超高齢化社会に突入し、「人生100年時代」は現実味を帯びてきた。平均寿命は男女とも80歳を超え、2060年には男性84歳、女性90歳まで延びると見られている。

 厚生労働省によれば、75歳以上の後期高齢者の3人に1人は、要介護、要支援状態にある。家族内の支え合い機能が低下した今、家族には頼れない。かといって、格安の特別養護老人ホーム(特養)の入所待ち高齢者は、36万人(16年4月時点)を超えている。長生きをするがゆえに陥る「長生きリスク」が高まり、今の現役世代には昔のような死に方は贅沢なものとなった。(編集部・野村昌二)

AERA 2017年11月20日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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