我ばかり強くなって、自然とひとつにならないと人間は生きていかれないということも忘れています。野菜料理を作るとき、もの言わぬ野菜の求めに応えることで美味が生まれます。そして、野菜というものの“いのち”と、人間の“いのち”との関わりも料理の時間を通して知る。「いのち」という観点から料理は考えないとだめです。

 しかし、だからといって台所仕事を楽してはいけないと言っているわけではないのです。手抜きはだめですけれど、都合の悪いことは科学的に変えていけばいい。例えば炒めものに使う木べら。私は鍋の直径に対してどういう幅やバランスにすると、自分のかけた労力を逃がすことなく仕事ができるかを考えた。科学的なちょっとした工夫で楽にできるものです。

 それよりもあなた、「きょうの料理」の思い出話を集めてどうするの? 北朝鮮のミサイルが飛んで以来、「ミサイルの時代に、日本人はいったいどのように食べていったらいいのか。どういう提案をしたらいいのか」。私はずっと考えていますよ。92歳ですけれどもね。思い出話なんてつまらない。考えるべきは、これからのことですよ。
(編集部・石田かおる)

AERA 2017年11月13日号