よく「声がコンプレックスで……」とか「どうしたら上手にしゃべれるようになりますか」という質問を受けますが、100人いれば100通りの表現があると思うんです。この世に悪い声なんてないし、「立て板に水」ならいいわけでもありません。むしろ滑らかに流れ過ぎると、記憶に残らないぐらいです。

 ラジオは真剣に聞いている人もいれば、聞き流している人もいるでしょう。大切な情報を届けたい時ほど、言葉選びや順番は慎重になります。例えばライブの告知をするのに、場所、日程、時間……どれから先に言えばいいか。「もう一度言いますよー」と一言挟むことで、覚えておいてほしいことを強調したりもします。

 言葉の「球数」、ボキャブラリーを増やすことも大切ですね。「雨の匂いが……」と同じで、体験を共有してもらいたい。耳から入ってくる私の声で、どれだけリアルに五感を呼び起こし、想像してもらえるか。そういうところは、ちょっと落語に似ているかもしれません。

 年齢と経験を重ねて豊かなものの見方ができるようになると、それを人に伝える語彙(ごい)ももっと身につき、より楽しくなる。DJとはそんな仕事だと思っています。(構成/ライター・浅野裕見子)

AERA  2017年10月30日号