「最初は皆そんなにやりたがらないので、いかに楽しませられるかが腕の見せどころ。今日も皆が楽しそうなのが僕の誇りです」。笑顔が少し、大人びていた。

 前出の渡邉教諭によると、農業系の進路を選ぶ生徒は多くない。ただトコトン究める研究者肌の生徒が多く、その高度な知的好奇心をくすぐるため、教員もかなりの準備が必要らしい。

 同校で過ごした日々が人生の基礎を築いた、というOBも少なくない。元航空会社勤務の戸井正明さん(67)もその一人だ。米国赴任中、日本の常識が通用しない状況を切り抜けられたのは、多様性を重視する筑駒での生活があったからだと振り返る。

「『こんな時、あいつならどう考えるかな』と顔が浮かぶのは、いつも筑駒の同級生。互いの違いを認めると言うのは簡単ですが、筑駒ではごく自然に実践されていたと思います」

(編集部・市岡ひかり

AERA 2017年11月6日号より抜粋