進学校として知られる筑波大付属駒場中学・高等学校。そこには長年の間行われている、伝統ある授業がある。
都会のど真ん中、渋谷までわずか2駅の駒場東大前駅前に水田が広がっている。管理するのは筑波大学附属駒場中学・高等学校(筑駒)の生徒たちだ。元々は筑波大の母体となった東京教育大学の付属校で、かつて農学部があった場所に位置する。稲作は開校以来約70年間続く伝統ある授業だ。現在は中1、高1の総合学習として実施している。
筑駒といえば、東大進学者数全国トップ級の超進学校だが、詰め込み型受験対策はほとんどせず、興味のある分野を存分に学べる自由な校風。稲作授業は、熾烈な受験戦争を勝ち抜いた秀才たちが泥まみれの世界に触れて好奇心の核を養うという、筑駒生の「通過儀礼」的な存在だ。
10月14日、半年間手塩にかけた稲を刈り取る日がやってきた。黒い足袋をはいた高1生約160人が、鎌を手に続々と水田へ。未明まで降った雨のせいで、稲は湿って重みを増し、服も腰のあたりまで泥だらけになった。
「自然は思い通りにはならないもの。食物を育てる難しさに向き合うことも授業の一環です」
と、授業を統括する渡邉隆昌教諭は言う。
「手の空いた人、稲刈りからまとめるほうに回って!」
作業を仕切るのは「水田委員」の生徒。中でもひときわ元気良く周囲に声を掛けていたのが、水田委員長の杉浦聡一郎さん(15)だ。中1の時、鬼ごっこ中に水田にドボンと落ちたのを機に、半分ノリで水田委員長に任命。いつしか水田が自身のアイデンティティーとなり、高校でも委員長を務めている。
「それぞれ得意不得意があるので、見極めて仕事を振り分けるようにしています。本当は自分が先頭を切ってやりたいタイプなんですが、中学の時よりちょっと成長したのかも」
と杉浦さん。授業では、苗床づくりから脱穀まで多くを生徒の手作業で行い、水田委員は道具の準備など裏方作業を担当。部活動や行事も活発で、水田委員の仕事の負担は小さくない。だが杉浦さんの受け止めは違う。