陸上100メートル9秒台に挑戦する日本人 壁の向こうには「風に乗る」感覚 (3/6) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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陸上100メートル9秒台に挑戦する日本人 壁の向こうには「風に乗る」感覚

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高野祐太AERA
9秒98の歴史的日本記録を示す電光掲示板の横でポーズを取る桐生祥秀(東洋大)。高校3年で10秒01を出してから4年半の苦節を乗り越えた達成感を物語るような晴れやかな笑顔だ (c)朝日新聞社

9秒98の歴史的日本記録を示す電光掲示板の横でポーズを取る桐生祥秀(東洋大)。高校3年で10秒01を出してから4年半の苦節を乗り越えた達成感を物語るような晴れやかな笑顔だ (c)朝日新聞社

桐生が日本新を記録したレースの判定写真。1000分の1秒間隔のスリットで判定される。桐生は9秒98、2位の多田修平は10秒07のスリットでゴールを通過(写真:日本学生陸上競技連合提供)

桐生が日本新を記録したレースの判定写真。1000分の1秒間隔のスリットで判定される。桐生は9秒98、2位の多田修平は10秒07のスリットでゴールを通過(写真:日本学生陸上競技連合提供)

 ラストで流し気味に速度を緩めたあたりがニクい芸当だった。決勝で勝負するために無駄に疲労をためないという、世界の一流だけができるパフォーマンス。「将来は世界記録を」と言い切る底知れぬ怪物ぶりを、こんなところでも垣間見せた。タイムは向かい風にもかかわらず、10秒05の自己タイ記録(世界大会の日本人最高タイ)だった。

 準決勝のスタートでつまずき、決勝進出を逃したのはご愛敬というところだが、そのミスさえなければ決勝は間違いなかったと強烈に印象付けた。

 サニブラウンの柔らかく重心移動して走る技術のキモはどこにあるのだろうか。安井コーチはこう分析する。

「接地の前半ですごく力強く入っておいて、後半の部分は力を入れ過ぎず、足が後ろに流れない形ですぐ前に引きつけている」

 サニブラウン自身もこの新たな走りに確かな手応えを感じていた。日本選手権閉幕の翌日、彼はこう言った。

「速く走るときがすごく楽しい。風に乗っている感じが一番かな」

 この言葉からは<10秒00の壁>なんてどこ吹く風、その先のずっと遠くまで飛んで行ってしまいそうな響きが感じられた。

 それにしても、サニブラウンが語った技術とはどれほどの意味を持つのだろうか。100メートル走と言えば身体能力を競う究極の競技である。だが、動作技術を洗練させることには思いのほか大きな比重がある。バチを持った手首の力を抜いたほうが太鼓は良い音がするように、身体運用にはコツ(=動作技術)があるからだ。

●エネルギー効率を最大化 実現する動作技術とは

 そして、物体の高速移動と考えるなら、100メートル走は物理学の現象なのであり、「エネルギー効率の最大化」を巡るゲームということになる。それを実現する動作技術について要点だけを挙げると、「重心の真下を踏み込む」「蹴った足を後ろに流れないように、素早く前方に切り返す」といったことになる。物体を押すとき垂直に力を加えるのが最も効果的だという理屈で考えると分かりやすい。それは一朝一夕に構築されたものではなく、91年の東京世界選手権で行われた研究を起点に解明が進んだものだった。


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