平時はゆとりをもって仕事や日常活動に振り分けられるエネルギーを、怒りと我慢のせめぎ合いが奪っていく。消耗すれば、被害者意識が頭をもたげ、感情が決壊しやすくなる。

 さらに、怒りは同様の出来事を繰り返し経験することによって成長する。

「我慢を積み重ねると、恨みに変わる。恨みはどんどん膨らみ、実際よりもずっと強大な敵になってしまうんです」(同)

 そんな怒りに、どう立ち向かえばいいのか。「我慢しすぎないこと。怒りは悪いものではない。自分の怒りを認めて、うまく昇華してあげることです」と下園さんは言う。

●ユーモアで呪縛を解く

 つまり、怒りやイライラを否定せず、原因を確かめたうえで、時に自分でスカッと燃やせばいいのでは。それが、怒りの正しい使い方、すなわち「怒活」ではないか。

 会社員の女性(45)は、ほとほと疲れ果てていた。50代の男性上司が、ものごとを決めず、的確な指示を出さない。いわゆる、「責任を回避し続けて出世したタイプ」。朝令暮改はいつものことで、ストレスを抱えてきた。女性はこう、言い聞かせてきた。

「この人に言っても、仕方がない。私が大人になろう」

 我慢が積み重なり、いつの間にか、上司の顔を見るのもイヤ。声をかけられるだけでストレスを感じるようになっていた。

 これでは仕事に差し障る。どうすれば、上司の呪縛から抜けられるか。怒りは脳のイメージだから、イメージで解消できるという話を聞いた。この女性は、ユーモアをもって実行してみた。大好きなジョージ・クルーニーが女性の肩を抱いて、「ぼくのハニーに何をする」と、上司をコテンパンに言い負かしてくれる。そんな場面を想像した。すると、上司の存在が、徐々に気にならなくなっていった。

 神経内科医で自然科学研究機構生理学研究所教授の柿木隆介さんは、怒りは本能的なものだという。

「怒りや不安などの感情は、大脳辺縁系の扁桃体で発生します。脳の深い位置にあり、サルや犬、ウサギやトカゲも共通して持っている原始的な部位です」

 生命を脅かされたら直ちに反応し、戦わなければ、命や財産を失うこともある。侵害されたまま声を上げなければ、共同体での地位を失い、迫害され、生きづらくなる。怒りは、古代から人の脳に組み込まれた警告装置でもあるのだ。

 対して、理性をつかさどるのが前頭葉だ。人間はほかの動物に比べ、前頭葉が極端に発達している。社会を構築するうえで、理性の中枢で思考したり、記憶したり、感情を抑えたりといった働きが、重要になっていったからだ。

「いわば、暴れまくる大脳辺縁系をコントロールするのが、前頭葉です。ところが、怒りは瞬時に発動しますが、前頭葉が働くまでには時間がかかる。個人差もありますが、概ね3~5秒だと言われています」(柿木さん)

 カッとして、つい手が出てしまった。思わぬ言動をしてしまった──。そんな失敗はこのタイムラグのせいかもしれない。

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