「大阪人は、感情の発散がうまい。基本的に会話が好きで、じっと黙っている人は少ない。叱られた、失敗した、ムッとした、という経験を話すことにも抵抗がない。しゃべっている間に、憤懣を吐き出しています」

 たとえば、大阪人は「あほ」という言葉を連発する。このキーワードで、怒りを柔らかく伝え、受け止めているという。
「このどあほう!」「あほかいな!」「あほ丸出しやないか!」。怒られたら「ほんまあほでしたわ」「叱ったってください」と返す。視線を自分からちょっとずらし、軽くする。大阪弁にはそんな仕組みもあるという。

「商人社会の伝統で、摩擦を生じさせない言葉の使い方がしみついている。笑いを大切にするのも、人間関係を重視するがゆえです」(井上さん)

 ノルウェーから14年前に来日した、神戸女学院大学専任講師で言語学者のヴォーゲ・ヨーランさんは、関西の「ツッコミ」の文化に注目する。

「海外の笑いは、一人がしゃべればそこで成立し、誰かがそれにコメントを挟むと『空気が読めない』となる。ツッコミは、ペアでの存在が多い『対の文化』がある日本ならではのものだと思います」(ヨーランさん)

●ツッコミ成立する条件

 関西におけるツッコミは、相手に対する「愛情表現」でもあるという。もっとも、そのツッコミが成立するには条件がある。ヨーランさんの研究では、知らない人相手やオフィシャルな場ではツッコミしづらくなるという傾向が見られた。ツッコミは、ツッコむほうとツッコまれる双方にそれを許容する文化が共有されていないと成立しにくい。

 日本では関西出身のお笑い芸人が全国区に進出し、ツッコミの文化も浸透してきた。あふれる感情をツッコミで昇華する土壌は、日本国内に限れば成立しているとも言える。

「なんでやねん!」と、小まめに突っ込み合えば、怒りをため込まず、楽しく昇華されていくかもしれない。

 とはいえ、怒りは諸刃の剣。怒りすぎは厳禁だ。怒りで勝利を得れば、脳内にドーパミンが放出され、快感を得る事態が起こりうる。依存性もあるかもしれない。前出の柿木さんは言う。

「先日、秘書を怒鳴っていた議員などは、怒りによって快感を得ていたかもしれません。そうなると厄介です」

 もしも、そんな理不尽な怒りをぶつけられたら、どうすれば。

「ワナワナと怒りをこらえるのは、相手の快感につながりかねないため、逆効果のことも。咳き込んでみては。深呼吸と同じ作用があり、自律神経系のバランスを保つのに効果的です。咳き込めば、怒っている人も相手が心配になるものですし、気勢は削がれます。怒りのパワーは減るはずです」(柿木さん)

 怒活は楽しくほどほどに。(編集部・澤志保)

AERA 2017年9月11日