私もつくりながらぐったりしてしまったんですが、音楽担当の菅野ようこさんも普段はパワー全開な方なのに、第33回の脚本を読んで10日ほど熱で寝込んでしまって……。森下さんも書き終えたときは虚脱状態でしたし、キャストもみるみる集中していきました。

(直虎役の)柴咲さんからは「台本を読んでこんなに衝撃を受けたことはない」と言われました。財前直見さんもちらっと「ものすごい愛の形よね」とおっしゃっていましたね。(高橋)一生さんからは本を読んだ感想自体は聞いていませんが、「『磔(はりつけ)にされて、槍で突かれ、血を吐いて死ぬ』なんてシーン、これまで大河ドラマにありましたっけ?」という話をしました。

 制作スタッフやキャスト、このドラマに関わる方が、「ちゃんと政次を見送らないと」という気持ちになりました。直虎は、1人では強さを手に入れられなかった。政次と呼吸を合わせて、表と裏、右と左で二人三脚で呼吸を合わせたからこそ、井伊直虎になりえたところがあります。だからこそ、政次の志を生かそうとすると、直虎はああいう見送り方をするしかなかった。究極の愛の形だと思います。

 政次は本心を言わず、隠していかないといけないキャラクターですが、(高橋)一生さんの得意とするところかな、と思いました。「ペテロの葬列」(TBSテレビ)、「民王」(テレビ朝日)など、声高に主張はしないけれど、何かを考えてぐっと抑え込む演技が似合う方。秘められたものを表現できる方としても一生さんがぴったりかな、と思っていました。

 政次は本音を言わず、思いと行動が裏腹な複雑な人物。どこまで視聴者に伝わるかな、と思っていましたが、見た方が見事に読み取ってくれ、読解力の高さにびっくりしました。もちろん、一生さんの力があってこそですが、見てくれた方とのキャッチボールが、政次というキャラクターを深くしてくれた。幸せな形だったと思います。

 第38回の終わりから、菅田将暉さん演じる、直政(虎松)が登場します。つぶれたお家の子が、徳川でどんどん出世していく。その過程で、井伊家と同じような困難を経験しますが、井伊家の知恵が生かされたり……。直虎も、もう一度、理想に向かってむっくりと起き上がる。オープニングのタイトル映像にもありますが、馬に蹴散らかされ、焼かれていったん死に絶えたものが、また春が来て新芽が出てくる。復活の力強さが、見ていただく方への応援メッセージになればいいなと思います。(編集部・市岡ひかり

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