憧れだった先輩の引退に武藤選手が感じたこととは(※写真はイメージ)
憧れだった先輩の引退に武藤選手が感じたこととは(※写真はイメージ)

 独ブンデスリーガのマインツに所属する武藤嘉紀選手が「AERA」で連載する「職業、ブンデスリーガー」をお届けします。大学在籍時からFC東京に所属し、日本代表にも選出。現在はマインツで活躍する武藤選手が異国の地での戦い、生活ぶりをお伝えします。

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 みなさんは、職業を尋ねられたとき、どう答えているのでしょうか。僕の場合は「Pro Footballer」。この連載を始める時も、いくつかのタイトル案の中から迷わず「職業、ブンデスリーガー」を選びました。

 常に責任がつきまとい、ワンプレーが人生をも左右する。それがプロだという自覚は持っているつもりです。試合や経験を重ねるごとに、観ている人に喜んでもらいたいという気持ちは強くなり、体づくりや環境を整えることにお金を惜しまず、自分の成長のために「投資」をするようになりました。

 けれども、正直にいうと、僕は、サッカーが仕事だと思ったことは一度もありません。

 ビジネスをしているという感覚は一切なく、ただ「うまくなりたい、成長したい、勝ちたい、負けたくない」という思いだけで、ここまで続けてきました。サッカーに対する気持ち、取り組む姿勢というのは、子どもの頃から今に至るまで、何ひとつ変わっていないと思います。

 そんなことを考えていると、Jリーグ・FC東京の石川直宏選手(36)が、今シーズンをもって現役を終えるというニュースが飛び込んできました。

 ナオさんは、僕が高校生の時から背中を追いかけてきた、憧れの先輩です。プロとして同じピッチに立つようになり、そのプレーはもちろん、人間的にも尊敬ができるチームメイトとなりました。常に仲間のことを思いやり、僕がドイツに渡った後も、けがをした時にどちらが先に復帰できるかを競い合い、いつも励ましてくれました。まさに「真のプロフェッショナル」だと感じる選手です。そのナオさんが、自らキャリアを終える決断をしたことは、少なからずショックでもありました。

 一方、「じゃあ、真のプロたり得るためには……」と、自問自答してみるものの、なかなか答えは見つかりません。好きなことを職業にできる幸せを感じつつ、ナオさんが何をどう考え、プロとしてのキャリアを重ねてきたのか、ゆっくりと聞いてみたい気がします。

AERA 2017年8月14-21日号