●優良顧客は自衛隊員

──いろんな債務者を見てきたと思いますが、返済を滞納する人の共通点はありますか?

金子:借金を返さないのは、だらしない人の一言に尽きます。家賃の滞納もそう。契約の際に、いついつまでに戸籍謄本や収入証明を送ってくださいと伝えて、期日を守らない人はだいたい家賃の支払いも遅れる。

武田:元消費者金融の立場で言うと、必要なお金を計算できない人は、多重債務者になりやすい。例えば、10万円借りたいと言ってきたお客さんに、「あなたなら最大50万円までお貸しできます」と伝えますよね。「じゃあ、50万円借ります」って言う人は、だいたい返済が遅れる。自分の収入は捕捉できているのに、支出に関しては捕捉できていないという人も多い。なんで返済できないんですか?って聞くと、「いや、子どもの塾代が3万円かかるのを忘れてまして……」とか「給食代が払えなくなってしまうので……」とか、平気で毎月発生する支払いを理由にするんです。そういう人の家に取り立てに行くと、独特のすえたにおいがする。あちこちからつまんで取り立てが来るから、窓を常に閉め切っていて、換気をしていない。

──逆に、“いい債務者”は?

榎本:督促をやらせてもらっていたなかでは、「回収率100%」の債権がありました。それは、包茎手術の代金です……。クレジットカードで支払ったつもりが、銀行口座の残高不足で引き落とせなかった方の督促業務が回ってくることがまれにあるんです。「医療費のお支払いが済んでいないのですが……」とお電話すると、「何の話かわからない」と答えることが多いんですけど、「◯◯クリニックでの手術代が……」とお伝えすると、「すいません!すぐ払います!」となる(笑)。

金子:コンプレックスに関する債権は回収率が高いと言いますよね。美容整形や植毛代の回収はラクと聞きました。

武田:消費者金融の優良顧客は、自衛隊員でしたね。防衛省共済組合貯金という積立金があるので、消費者金融の返済を滞納していることが上官にバレた場合には、「積立金を解約して一括返済しろ」と言われるらしいです。だから、まず回収できないことがない。海上自衛隊だと、船に乗って何カ月も日本に帰って来られない。返済なんてできませんよね?どんどん返済が遅れて、消費者金融は利子が稼げる(笑)。

榎本:今までのような督促業務は難しくなってくるかもしれません。というのも、債務者の高齢化も進んでいて、お電話で話をしていても、耳が遠くて聞き取れないという方が増えてきているんです。若い方はSNS世代で電話に出ない方も増えています。今後、コールセンターでの督促業務はやりにくくなってくるかもしれませんね……。

(ジャーナリスト・田茂井治)

AERA 2017年4月3日号