富澤裕さんの厳しくも温かい指導で、団員の声にも一段とハリが出る=2月、東京・大塚の跡見学園女子大学で
富澤裕さんの厳しくも温かい指導で、団員の声にも一段とハリが出る=2月、東京・大塚の跡見学園女子大学で

 がん患者はありふれている。健常者と変わらず、何でもできる。その証明は生きている「歓喜」を歌うことと決め、練習に励んでいる人たちがいる。

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 がんを患った人、その家族・友人や医療関係者ら145人がこの4月、若きマエストロ山田和樹さんの指揮のもと、べートーベン交響曲第九番「合唱付き」の演奏に挑もうとしている。アマチュア合唱団とはいいながら、満足のいく演奏へのハードルは高い。いま最後の追い込みに拍車がかかっている。

 この企画は、がん研究会・同会有明病院(東京都江東区)や日本フィルハーモニー交響楽団などの企画・主催で4月1日に開く「がん患者さんが歌う春の第九」(会場・東京オペラシティコンサートホール)というチャリティーコンサートだ。がん研の幹部らが日フィルの平井俊邦理事長と話すうち、実現の運びになったという。

●一般からの支援も期待

 イベントにはいくつもの願いが込められている。高齢化社会の到来で、今やがんは2人に1人は経験する「当たり前」の病気。がん研有明病院は、がん専門の医療機関として、患者と医療者が一体となって歌い、がんの克服を目指すと同時に、がん医療の実態を広く知らせて治療研究への一般からの支援を求めることも目的としている。日フィル正指揮者の山田さんもこのようなメンバーとの第九演奏は初めてだが、趣旨に賛同し、指揮することを決めたという。

 歌声の輪も広がっている。ホームページなどで広く参加者を募ったところ、治療中のがん患者40人、がん治療を終えた“サバイバー”が40人、患者の家族24人、医師・看護師ら医療関係者41人が集まった。合唱の指導に20年以上の経験を持つ作曲家・指揮者の富澤裕さんを中心に、昨年6月以降、毎週月曜に1回、2時間をかけて歌う練習を40回超もこなしてきた。

●長野から毎週通う人も

 参加者のうち、第九を歌ったことがある人は86人と半分を超えるが、そもそも合唱経験がゼロという人も40人近い。20分を超える第4楽章の「歓喜の歌」は、男女ともに音域が広く、合唱経験者にとってさえ相当な難物。しかし、目標は楽譜を覚え、聴衆を感動させる最高の演奏だ。患者も前向きに臨んでいる。

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