裁判の場では、「被害者が強く抵抗したかどうか」が問われるが、前出の一橋大学・宮地教授は、「抵抗は恐怖を感じたときの反応として一般的ではない」と指摘する。人は心が耐えられないほどの恐怖や危険を感じたとき、体が動かなくなることがある。「フリーズ反応」というが、この場合、加害者は暴力を振るわずとも目的を達することができてしまう。被害者が「抵抗しなかった」「逃げなかった」ことを理由に、加害者の責任が問われないのはおかしい。

●大学生同士が伝え合う

 3月15日、「キャンパスレイプを止めよう!」と題して、お互いを尊重する性のあり方を考えるイベントが開かれた。昨年、慶應義塾大学、千葉大学、東京大学などの学生らによる集団レイプや集団わいせつ事件が相次いだことを受けて、企画されたものだ。大学生を中心に、若者たちが、「性行為における同意」について話し合った。

 主催団体の一つ、「ちゃぶ台返し女子アクション」の大澤祥子さん(26)はこう呼び掛けた。

「アメリカやイギリスでは、性行為には同意がなければならないとされていて、そういう教育もされている。女性も性の主導権を握っていいし、性行為では相手の意思を尊重することが大切だということを大学に戻って周りの人に伝えてほしい」

 性暴力被害者で、親子カウンセラーとして活躍する大阪府の柳谷和美さん(48)も言う。

「加害者も被害者もつくらないために、自分も相手も尊重し、嫌なことは嫌と言える人間を育てていくことが大切です」

 5歳のときに隣に住む友だちの父親から、7歳のときに当時16歳のいとこから、性暴力の被害を受けた。中学・高校時代は「自分は汚い子やから生きている価値がない」と自暴自棄になり、夜遊びを繰り返した。恋人からもDVを受け、中絶2回。誰にも言えずに30年以上、苦しみ続けた。

 子育てに悩んでカウンセリングを受けたことを機に「私は私のままでいい」と自分を認められるようになり、「苦しみを知っている私だからできること」を伝えようとカウンセラーになった。柳谷さんは言う。

「加害者だって、私にあんなことをするために生まれてきたんじゃない。性暴力の被害者として、人が人を傷つけることのない社会を実現していきたい」

(編集部・野村昌二、深澤友紀)

AERA 2017年3月20日号より一部抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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