内閣府の2014年度の「男女間における暴力に関する調査」によると、女性の約15人に1人がレイプされる経験をしていた。被害者のうち24.8%の人が心身に不調をきたし、18.8%の人が自分が価値のない存在になったと感じ、16.2%の人が異性と会うのが怖くなったと答えている。引っ越したり、仕事や学校を辞めたり休んだりして生活が一変した人もいた。

●暴行・脅迫要件は残った

「ヤマトミライ」の名前で性暴力被害の講演活動をしている石田いくみさんも、性暴力に人生を狂わされた一人だ。
 20歳の頃、3人の男に集団で強姦された。加害者は初めて会った友人の友人。「殺すぞ」と脅されて、「生きてここから帰るため」抵抗できなかった。

 バスガイドを夢見ていた。アルバイトで学費を稼ぎながら短大で観光を学んでいたが、短大にもアルバイトにも通えなくなった。異性への恐怖が募り、男性の運転手と2人で行動することが多いバスガイドもあきらめた。就職が決まらないまま卒業。その後も、採用面接を受けるたびに空白期間の理由を聞かれるが、うまく説明できない。事件のことを言えずにいた親からは「フラフラしている」と突き放され、「人生ってこうやって壊れるんだ」と絶望した。

 数年後、経済的にも精神的にも追い込まれ、国道で寝転がった。急停止した車から降りてきた男性を前に、「死にたかった」と泣き崩れた。自らと対話する「コーチング」と出合ったのはその後のことだ。「性暴力被害者だって幸せになっていい」と思えたことが転機になり、性暴力被害当事者の談話会「サバイバルサロンぷれぜんと」を主宰している。
 今回の刑法改正案で、改正を望まれながらそのまま残ってしまったことがある。「暴行又は脅迫を用いて」強姦した場合に強姦罪が成立するという「暴行・脅迫要件」だ。

 先の内閣府の調査では、女性のレイプ被害者のうち警察に連絡・相談した人はわずか4.3%しかいなかった。勇気を出してレイプ加害者を告訴しても、裁判の場では「明らかな暴力性」がなければ有罪とされにくく、加害者が「脅迫したつもりはない」と主張すれば無罪になることもある。異性と2人でお酒を飲んだだけで「性交に同意した」と判断されることもある。「暴行・脅迫要件」があるためだ。

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