「親の急病などの場合は子どもも学校を休ませなければならないし、学校に親がいることで、本人にも甘えが出てしまうんです」(綾子さん)

 常に傍らにいる親の存在が、自立や成長を阻害しているのではないか、と悩んでいる。

●生きていく場所がない

 医療的ケアを必要とする子どもは近年増加している。2015年度、公立の特別支援学校に通う医療的ケアが必要な幼児・児童・生徒は8143人で、06年度の5901人に比べて1.4倍。同小・中学校にも839人の医療的ケア児が通っている。

 増加の背景にあるのは、医学の進歩。以前なら出産の際に命を落としていた子どもも助かるようになった。国連児童基金(ユニセフ)の「世界子供白書2015」によると、日本での5歳未満の子どもの死亡率(13年の推定値)は1千人あたり3人で、世界で下から2番目の数字だ。医療的ケア児をはじめとする障害児保育に取り組むNPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹さんは指摘する。

「医療的ケア児の現状に社会のインフラが追いついておらず、彼らは病院を出たら生きる場所がない」

 地域の受け皿はあまりに少なく、負担は親にのしかかる。それは、教育においても同じだ。

 16年に障害者総合支援法が改正され、自治体は医療的ケア児を支援する努力義務を負うことになった。全国の特別支援学校では、医療的ケアを担うことができる看護師の配置も増えており、06年度に707人だった看護師は15年度には1566人と倍増した。

 しかし、学校教育法には特別支援学校や小中学校への看護師の配置についての規定がなく、多くは非常勤職員で、勤務時間が対象児童・生徒の登校時間内に限られるなど、雇用が不安定で給与も低い。

●健康保険法88条に「等」

 特別支援教育における医療的ケアの現状に詳しい、大阪医科大学看護学部の泊(とまり)祐子教授は、教育現場に配属された看護師の苦しい状況を指摘する。

「すぐに相談できる医師がいない学校で子どもを看護するには、医療機関での勤務よりも難しい面があります」

 看護師は医療的ケア児の病態や個別性を理解する必要があり、重症児看護の専門性も問われる。一方で看護への理解不足や異職種である教員、養護教諭と連携を組む苦労もあり、

「結果的に短い期間で入れ替わってしまうんです」(泊さん)

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