12年からは、研修を受けた教員もケアが可能になったが、15年度の調査では12の県の特別支援学校で、ケアのできる教員が1人もいなかった。

 安全確保という理由で、看護師が常駐していても、医療的ケア児には保護者の付き添いを求める学校や自治体もある。スクールバスに看護師が同乗していることはほとんどなく、保護者は送迎のために転職や離職を余儀なくされるケースが多い。

 全国医療的ケア児者支援協議会「親の部会」のリーダー小林正幸さん(43)の息子は中学2年生。一人で歩けるが医療的ケアが必要だ。子どもたちが置かれた不安定な現状をこう訴える。

「私たちの調査では、医療的ケア児の4分の3以上が、保護者の付き添いがなければ教育が受けられない現状があります。保護者に何かあると、子どもたちは学校に通えない。毎日、ただただ校内に待機している保護者も多く、『待機保護者ゼロ』の社会が実現してほしい」

 同協議会は昨年12月に会見を開き、医療的ケアの必要な子どもたちも、当然の権利として義務教育を受けられるようにするために、健康保険法88条の改正を訴えた。訪問看護の提供場所を定めた「居宅において」という文言を「居宅等において」に変えてほしい、と。同協議会によるアンケートでは、「看護師のいる場所がそのままその人の生きられる場所になる」という意見も寄せられている。

●クラスメートと内緒話

 都内の小学校に通う3年生の男児は、脊髄性筋萎縮症で自分で体を動かすことが難しい。気管を切開していてたんの吸引などの医療的ケアも欠かせない。母親(38)は小学校入学時、「保護者が付き添うこと」と書かれた書面へのサインを求められた。義務教育なのに親のサインがないと入学できないなんて、と悔しさがこみ上げたという。

 平日は朝8時半から午後3時半まで、父か母が男児に付き添う。学校では常に息子の隣が指定席。だが先日、少しだけ息子のそばを離れたとき、クラスメートが息子に駆け寄って内緒話をしているのを見た。ほほえましく感じた半面、自分が隣にいることで、友だちとのコミュニケーションを阻んでいるのだとも思った。自宅だけではなく、通学や校内で訪問看護を利用できるようになれば、息子の暮らす世界が変わる、と。

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