日本がアメリカの属国であることを日本人はみんな知っている。知っているが、知らないふりをしているだけである。その現実を現実として直視したら、ではその現実とどう立ち向かうか、どうやって属国の地位を脱して国家主権を奪還するかについて本気で考えなければならなくなるからだ。残念ながら、そんなスケールの問題について考えることのできる人間は今の日本の指導層の中にはいない。だから、そんな問題は存在しない、日本は主権国家だという「ファンタジー」の中で夢見ることを人々は選んだ。日本が属国であるのはたかだか彼我の物理的実力の差の結果に過ぎない。国民的努力を結集すればいつか主権は奪還可能だと私は思う。けれども、属国であるという現実を直視しない限り、主権国家になる日は永遠に来ない。(内田樹)

AERA 2016年12月12日号

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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